wazatodayo

 感情知らずののっぺらぼう


「翔くん、あんな、私告白されたんよ」
「キモ」
「なんやったかな、なんかサッカー部のキャプテンさんらしいわ」
「名ちゃんが誰に告白されたとか、ボクには関係ないわ」
「せやね」

名ちゃんがキモい男に告白されたと言い出したのは昼休みのことやった。関係ないわと一言話せば、小さく笑って同意した彼女の気持ちなんて気に留めることもなく、彼女が作ってくれた弁当を食べていた。

「今日の卵焼き、成功したんや」
「普通やで」

いつも美味しいと言えば喜ぶこともよう知ってるけど、そんなん言うのキモいやろ。

「翔くん、その人にな、明日から一緒にお昼ご飯食べよう言われてん」
「はぁ?名ちゃんは誰かもようわからん男と付き合うことにしたん?」
「お友達からやって、その人言うてはったわ」
「キモ」
「せやから、今日で翔くんにお弁当作るのは最後や、心して食べてな、なんて」
「ハァ?」

最後てなんや。お昼ご飯は名ちゃんのお弁当って、中学生の頃から決まってるやろ。

「なんで最後なん」
「明日からは翔くんとご飯食べられへんから」
「なんでそうなるん」
「言うたやろ、明日から一緒にお弁当食べよて先ぱ」
「食べよ言われたんは聞いたけど、まさか名ちゃんは同意したん?」
「…そうやで」

彼女の説明を遮り確認をすると、下を向いた彼女が小さく呟いた。

「なんでや、その先輩が好きなん?キモ」
「好きやないわ、でも好きになるかもしれんしわからへんやろ」
「何がわからんの、キモ、キモ」
「もう私やて高校1年生や、彼氏の1人や2人欲しいな思うてもおかしない」
「キモ」
「とにかく今日が最後や」
「困るわ、昼のリズム狂わされたら自転車に影響出るわ」
「もっと美味しいご飯買えばええやろ」

名ちゃんの弁当が一番うまい言うてん、なんで伝わらんのや。
小学生の頃から、ボクが下を向いた時も楽しい時も名ちゃんがそばにおって、名ちゃんがおれば、黄色の世界が広がってるんやから、ずっとボクの隣に居ればええのに。

「その先輩に弁当作るん?」
「そうやな、喜んでくれるとええけど」

他の人に作るお弁当のことを考える名ちゃんなんてどっか行ってしまえばええ。

そんな心の声なんて名ちゃんに届くわけもなくて、無言で名ちゃんの卵焼きを口に入れた。

***

「翔くん、どうしたん?」
「迎えに来てやったわ」
「昨日言うたやろ、今日から一緒に食べられへんねん」

次の日の昼休みに教室まで行ったのに名ちゃんはナントカクンとかいう先輩と一緒におった。他の男のこと考えてる名ちゃんなんて、キモくてしゃあないわ。

「ボクのお弁当はぁ?」
「ないよ、昨日ちゃんと話したやろ」

キモ。

「名ちゃんの弁当やないと困るわ」
「お金忘れた?貸そうか?」
「ちゃうわ、そんなまずいもん食えんわ」
「私のお弁当よりは美味しいやろ、翔くんいつももっとうまいもん作れ言うとったやん」
「キモ」
「はぁ…もう、翔くんごめんやけど、いま先輩とご飯食べてんねん、困るわ」
「名ちゃんのお弁当が一番美味しい言うてんのなんでわからへんの」
「は…」
「名ちゃんはずっとボクの隣でご飯食べとればええやろ」
「なんやそれ、意味わからん」
「キモ」
「キモいのはどっちや、アホ翔」
「なんでこんなん言うてもわからへんの」
「わからへんわそんなん、私が誰に告白されようと関係ないって言うたの翔くんやろ」

揉めていると思ったのか、ナントカクンがこっちまで来て名ちゃんに声をかける。

「キモ」
「翔くん」
「キモ、キモ」
「翔くん!」
「名ちゃんはよ行くで」
「行けへんて」
「申し訳ないですけどぉ、名ちゃんのお弁当はボク専用なんで横取りせんといてもらえます?」

は?とキモいこと言うとる先輩とやらを置いて名ちゃんの腕を引っ張れば、名ちゃんは口を開けたアホな顔してついてくる。

「名ちゃんのせいでお昼食べ損ねたわ」

いつもの場所に着くなり文句を言うも名ちゃんは相変わらずアホな顔をしてる。

「キモ」
「なんで」
「名ちゃんの弁当ないと困る言うとるやろ」
「私は翔くんの弁当係ちゃう」
「名ちゃんおらんと全然黄色くならん言うとるんや」
「意味わからへんわ」
「キモいわ」
「なんでそうなるん」
「名ちゃんはあんなようわからん男じゃなくてボクのそばに居ればええ言うとるんや」
「な…」
「アホ面やで」
「翔くん、私のこと好きなん?」
「ハァ?キモ」
「私は翔くんのこと好きやで」
「…キモ」
「なんや、翔くんは私のことなんとも思っとらんと思っとったわ」

2人の間にできた隙間を埋めるように距離を詰めて座り直した名ちゃんがボクを覗き込む。

「ほんま、翔くんはもう少しわかりやすくしてくれてもええと思うわ」

そう言いながらボクの耳朶を触って「赤なってる」と話す名ちゃんの方が赤いわ真っ赤や。

「好きやで」

もう一度彼女がそうボクに話すと、目の前の景色に黄色い色がかかった気がした。

「ボクは普通や」

プッ、と吹き出した彼女は呆れた声で

「翔くんの普通は最上級の褒め言葉や、せやから両想いやね」

なんでそうなるん、と思いながら、ボクの手の上に置かれた手に指を絡ませてみると、ニコニコと握り返されるその手が妙に暖かく感じた。


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