恋人たちの縁結び
空き教室の中にユキちゃんと私の二人きり。
しかも今さっき、お互いの気持ちを確認して、付き合うことになったばかり。ユキちゃんに片想いしていた今までとは違うドキドキに襲われる。
「ぷっ。名、緊張しすぎ」
「だ、だって彼氏彼女だよっ!片想いの期間が長すぎて、いざ付き合えても、どうすればいいかわかんないんだもん…」
「付き合うったって、人それぞれだから、今まで通りのオレたちのペースでいいだろ……あぁ、もしかして名は、すぐにでもオレとキス以上の事がしたいのか?」
私を抱き寄せて、ユキちゃんがニヤリと笑みを浮かべる。
「なっ!どうしてそうなるの!違うよ!ユキちゃんのえっち!!」
ユキちゃんの胸を押して、腕の中から抜け出し、逃げるように数歩後ろに退がる。
「そりゃぁ、残念。ーーそういやぁ、今日名、髪巻いてんだよな」
「え…ユキちゃん、気付いてたの?」
「毎日名のこと見てんだから、気付くに決まってんだろ……似合ってる。コレ、オレのためって自惚れてもいいのか?」
ユキちゃんが数歩の距離を詰めて、私の髪を一房手に取り、指でカールを撫でる。さっきユキちゃんがぐしゃぐしゃと撫でたせいで、若干崩れてちゃったんだからね。そう文句の一つも言おうと思ったが、あまりにも愛おしそうに髪を撫でられてすっかり毒気を抜かれた。
「…うん。自惚れてもいいよ」
「そうか。……でももう巻いてくんなよ」
「どうして?ユキちゃんに褒めてもらいたくて、頑張って巻いたのに…」
ユキちゃんからの一言が聞きたいがために、早起きまでして頑張ったんだから……でも、巻いてくるなと言われて少し悲しくなる。
「ーーーから…」
モゴモゴと早口で言われて、聞き取れず聞き返す。
「ユキちゃん、なんて言ったの?」
「っ、他のやつに名の可愛い姿見せたくないから巻いてくんな、つったんだよ!何度も言わせんなっ!」
「えっ…それって…」
「…悪かったな。独占欲強くて」
「全然悪くないよ。ユキちゃんがヤキモチ焼いてくれて嬉しい」
「バカっ!わざわざ言うなよ…かっこ悪りぃ…」
全然かっこ悪くなんかないよ。
照れを誤魔化すように、ユキちゃんの唇がチュッと私の唇に重なった。
「…次は名から、オレにキスしてみろよ」
「え?え?!私から?!…私からなんて恥ずかしくてできないよ!!」
「じゃぁ、オレからのキスはもうナシな」
「ううっ…ユキちゃんの意地悪…」
恥ずかしいけど、ユキちゃんからキスしてくれないなんて嫌だ。この短時間で、私はユキちゃんとのキスの虜にされてしまったようだ。覚悟を決めて少し背伸びをして、私からユキちゃんの唇にゆっくりキスをする。ーーキスってする方もこんなに緊張するんだ。
した時のようにゆっくりと唇を離すと、間近にユキちゃんの顔がある。自分からユキちゃんにキスしたという恥ずかしさに俯く。
「よくできました。ちゃんとできるじゃねーか。じゃぁ、ご褒美のキスな」
俯く私の顎を指でクイっと上に向かされ、またユキくんの顔が近づき、キスされる。
一度離れたと思ったら、短く何度も唇が触れては離れるのを繰り返す。こんなにも近くにいて、ユキちゃんのシトラスの爽やかな香りに包まれる。
「名……」
ふいにユキちゃんに熱っぽい声で名前を呼ばれ、瞑っていた目を開ける。こんな風に名前を呼ばれたことは初めてだ。心臓がドクンと脈打つ。ユキちゃんに心まで捕らえられ、目が離せなくなる。
「口開けて」
魔法でもかけられたように、ユキちゃんの言う通りに、僅かに口を開く。するとユキちゃんの舌が入れられ、より深くに口付けられる。恥ずかしさにまた目を瞑ってしまう。
私の口の中を這うユキちゃんの舌。舌同士が触れてしまい慌てて舌を逃すも、狭い口内、すぐにユキちゃんの舌に絡め取られて交わる。
「逃げねぇで、オレがするように絡めてこいよ」
それだけ言って、また口を塞がれる。ユキちゃんみたいに……徐々に私からも絡めていく。
ーーコレで合ってるのかな?
「…それでいい」
私の疑問がユキちゃんには手に取るようにわかってしまったらしい。口が離れた時に思い切り息を吸い込む。
気持ちいい。息ができなくて苦しい。痺れてくらくらする。恥ずかしい。ーーでも気持ちいい。
「んっ」
「ふぁ」
キスの合間に漏れてしまう声と、角度を変える度、ちゅっ、くちゅと耳に届く音によって羞恥心で潰されてしまいそう。だけど、それ以上に気持ち良くてユキちゃんとのキスに夢中になる。
突如制服の裾から、ユキちゃんの手が侵入し腹部を這う。びくっと反応してユキちゃんから離れようとしたが、後頭部を手で固定されてキスから逃げられない。
あ、ユキくんの手が胸に…
下着の上からユキちゃんの手が胸に触れた。感触を確かめるように優しく揉まれる。
「んん」
後頭部を押さえていた手が下がり、服の上からブラのラインをなぞる。ホックが外されると思った次の瞬間……
♪キーンコーンカーンコーン
授業の終わりを告げるチャイムの音を合図に唇を離すユキちゃん。胸元にあった手もすっと制服の中から抜かれる。
「ーー残念だな。今日はここまでみたいだ。他のヤツに見つかる前に戻らねぇとな」
オデコにキスを落としたユキくんが、私から一歩離れる。
何事もなかったかのように、ユキちゃんの手によって整えられる制服。あのままチャイムが鳴らなかったら……さっきまでの甘いキスも思い出してしまい、今更ながら心臓が飛び出しそうなくらいドキドキしているのに気付いた。キスに夢中になり過ぎて、気付かなかったみたいだ。
私とは対照的に、あまりにもいつもと変わらないユキちゃん。やっぱり夢でも見ていたのではないかと錯覚してしまう。
鍵を開け、空き教室を出る直前にユキちゃんが甘く囁く。
「続きはまた今度な。楽しみにしてる。いい子で待ってろよ」
下ろしていた私の手の指にユキくんが指を絡めるように手を繋いできた。
ユキちゃんの手の温もりを感じる。あぁ、ちゃんと現実だったのだと認識して、教室に戻らなければいけないのに、顔が熱くなってきた。
ーーー続きをする時には、わたしの心臓が保たないかも。
神様、こんなにドキドキするのは、サボった罰でしょうか?
綾さまに書いていただいたかみさまの縁取りの続編