『頼るということは弱いことだ、頼られることは重荷になる。俺は一人で強くなりたい』

そう思い始めたのは多分アメリカから帰ってきたくらいだろう。

「……ふう」


また練習をサボってしまった。キツかったわけじゃない。今日は幾らか軽いんだ。ちがう、練習がキツいとかだるいとか、そうじゃない。全然別の理由だ。


「こんなとこにいた…」
「…ああ……ナマエか」
「ナマエで悪かったわね」

トレーニングルームへと続く階段の最上段に半身を預け、寝転がっていた俺の隣にマネージャーのナマエが座った。呼び戻しにきたんだろう。

「………」
「………」
「……気にしてるんでしょ」
「なにが」
「夏目健二」
「……してねーべさ、」

はい嘘ね、とナマエも俺と同じように寝転がった。いや気にしてないなんつーのは大嘘だけども。

「抜かれてた度に落ち込んでたら、昨日の夏目健二の方が落ちてるよ」

まあ、確かに。けど、訳が違うべ。


「俺、いけねーのかな?」
「いけねーくねーよ」
「俺のプレースタイルは、俺だけの物だ」
「うん」
「信念がある」
「へえ」
「誰にも何も頼らない」
「うん、知ってるよ」

今まで天井に向いていたナマエの顔が俺へと向き直った。間接視野で分かる。

「なんか、崩された」
「夏目健二にがっかりした?」
「いや、逆だね。 ビビった」
「というと?」
「うまく言えねーけど、大事なもんを壊された感じがした」

自分のやりたいように、振る舞いたいように。それでいいと思っていた。それこそが一番良いと思っていた。でも、昨日のあの試合は……。

“分かったろう、オマエのそのスタイルには限界がある。これはチーム戦なんだ、オマエがどんなにやっきになったって、5対1じゃ勝てねーよ”

呼人の言葉は胸に刺さった。あの夏目健二に負かされたあの瞬間、俺の中で何かが崩れた。
何事も好きなように。 そんな自分が好きだった。誰にも左右されないワガママ野郎の自分が最も"らしさ"だと考えていた。
中にはそんなガキみてーなこと言ってんじゃねえ!とかチームプレーをしろ!とドヤしてくる奴もちらほらいたが、何が悪いのか分からない。得点取れりゃあ文句ないだろう。そいつらだって、俺の得点で勝ってきた試合に喜んでたのが事実だ。

「…それじゃあ、ダメなんかね…はは」
「なんか、キモイね」
「は?」
「豹らしくないね」

今度は俺の顔が天井からナマエへと向いた。ばちばち視線が合い、ナマエの白い肌と自分がどれだけ近い距離にいたのか気づき、少し照れ臭くなる。

「直さなきゃ〜、とか思ってんの?」
「……わっかんねーけっど」
「呼人や、他のチームメイトには悪いんだけどさ」
「うん」
「私さ、豹らしい豹が好きなんだよね」

くしゃっと笑った。

「独断でワンマンで、一匹狼の豹らしい豹が好きなんだよね」


飛んで弾けて、
どっかいった何か



「俺ちっと改心しようとか考えてたとこなんだけどっ」
「私そのままの豹のが好きよ」

ちょいと泣きそうになった。

12.04.25

mae tsugi