高校に入学して数ヶ月、わたしミョウジナマエは初恋をした。


「ふーわーピョーン、やる気ねーなら帰ってもいいんだぜ?」
「ありますっ!全然ありますからっっ!」

その子、不破豹


「不破ぁ!俺の授業で居眠りなんていい度胸じゃねーか!成績1にしてやってもいいんだぞ?」
「ちがいますって!今のは長〜〜いまばたきっ!ねっ、ミョウジさんも見てたでしょ?オレのまばたき!!」
「え…うん、まあ」
「ほら先生っ!今のはまばたきってことでっ!!」


お調子者で、うるさくて、運動神経抜群で、英語以外バカで、オレンジで…



「あっぶねー、ガチ寝してたべや…ありがとねミョウジさん、助かっちった!」
「…どうも」

初めて声をかけられた時は相容れないタイプだと思ってたのに、気がついたらいつも目で追ってて、だるそうにしてる日とかは熱でもあるんじゃないかって心配で仕方なかった。今みたいに授業中に居眠りが先生に見つかった時も長いまばたきなんて言い訳をするんだけど、なぜかいつも私に振られる。おかげで私は豹くんの困ったときの助っ人みたいなポジションになってしまっている。


「やべ、次の授業の宿題やってくんの忘れた!やべーっ!!」
「…私の写していいよ」
「えっほんと!!?マジ助かるっ!神!」


本当は助っ人なんかじゃなくて彼女になりたいんだけど、今まで恋愛なんてしたことのない私の恋愛スキルは0。今だって可愛く私の見せてあげるねっ!なんて言えればきっと違ったんだろうな、私バカだ。


「うお〜、ミョウジさんの字ぃメッチャきれー!見本並み!」
「…ありがとう」

ちがうちがう、もっと可愛らしくそんなことないよー!って言うんだよバカ。せっかく褒めてもらってるのに無表情でありがとうなんて可愛げなさすぎ。


心の中でバカバカと自分を殴っていると書くのに夢中だった豹くんがふいにこっちを向いた

「あれれ、ミョウジさん髪染めた?」
「…うん…昨日染めた」
「やっぱり!オレ天才っ!乙女の変化に素早く気づくなんてモテちったらどーしよー!!」

じぃっと見つめてくる彼の眼はビー玉みたいに綺麗で、あまりにも魅力的で吸い込まれそうになって、とっさに視線をそらした


「…ありり?なして下向くのー?」
「…べつに」
「ふーん」


ぱたり、彼は書いていたノートを閉じた。うつさなくていいのか宿題



「前から思ってたんだけっど、ミョウジさんってさー…クールビューティーだよねー!」
「ぶっ…ク、クールビューティー…?」
「うん、無口だしあんま笑わねーし、ってかミョウジさんの笑ったところ見たことねーや。無愛想で人を寄せ付けない感じっ」
「……」
「ねえ笑ってみせてよ!この前流行った家政婦ドラマの主人公じゃないんだからさっ」
「……」
「って急に言われても無理だよねっ!ごめん今のなしでっ!」
「……なんか…すいません」
「いやいや、謝んなくていいんだべさ。ただ可愛いなーと思って」
「か…かわいい…?」
「うんっ!めっさかわいーーっ!」
「……可愛いって言ったり、無愛想って言ったり…からかってるならやめて下さい」
「そんなわけないべやーー。ただ単にめっさオレのタイプなの」
「……」
「まーじーでー!!」


豹くんは両手を両ヒザの上に収め(面接の基本姿勢みたいなやつ)真面目な顔して言い出した。

「その綺麗な目も、小さい手も、いい匂いの髪も、字ぃ綺麗なところも…感情をうまく言葉にできないところも、愛想よくしなきゃって頑張ってるところも、オレに可愛いって言われて照れてるところも、全部タイプなのっっ!!」
「……いや…あの…」
「ちなみにオレ初恋なんだよね、女の子って繊細だからガツガツしていくと引かれちゃうってヤック先輩に教えられたけど、告白はやっぱり男からしてほしいべ〜」
「……」
「ってことで付き合ってクダサイっっ!オレミョウジさんのこと好きだべやっ」

唐突な告白に教室にいるクラスメイト達がドヨっとした。いいぞ不破―!とか、ひゅーひゅー!とか祝福とも聞こえる声が飛び交う。あの、その、えっと、これは一体…

「……」
「……」
「…えーっと…」
「だめっ?もしかしてオレふられちゃうっ?」
「…えーっとー…よ、よろしく…です」


うおっっしゃああーー!!!とクラス全体が湧き上がった。え、えっなんでそんな盛り上がってんの?

「もーヒヤヒヤしたよー」
「豹オマエわかりやす過ぎだから!」


続々と集まってくるクラスメイトたちが意味深なことを言っている。豹くんは照れて後頭部ガシガシかいてて、私だけついていけてない

「…どういうこと?」
「みんなで不破の初恋を応援してたわけだ!不破わかりやすいから、みーんな不破がミョウジのこと好きなの知ってるよ!」
「ばらしちゃダメ!恥ずかしい!オレ照れちゃうっ!」
「……」


「いやー俺は正直ダメだと思ってたよ!ミョウジさん人気あるし」
「私はナマエが不破くんのこと好きなの知ってたよ!」
「えっマジで!?」
「豹もわかり易いけど、ミョウジさんもけっこうわかり易いタイプだよな」
「いえーい!俺ジュースもーらいっ」


私と豹を取り残して、私たちの話題で盛り上がるクラスメイトを唖然と見つめる。私の知らないところで、みんなこんなこと話したりしてたんだ。中には豹くんの告白が成功するかどうかでジュースを賭けてる子たちも数人いたらしい

昔から私って存在感なくて、学校来てるのにいないと思われて担任に欠席にされたこともあるし、普通に帰って来てたのに親が家にいないと思って夕食作ってくれない日だってけっこうあるし、友達とかにも「あれ、いたんだ?」とか言われてきたくらいだから、人前に出るなんてもちろん、こんな大勢の人に注目されることなんて初めてなんです。目立ちたがり屋なわけじゃないし、できれば高校生活地味に静かに過ごしたいと思ってたんです。告白だって予想外だし、クラスメイトにこんな注目されるなんて思いもしなかったよ

けど、私の思い描く高校生活を送ることはきっと叶わない。隣にいるギンギラなオレンジの豹くんを見て、ぽりぽりと鼻先をかいた。こんなド派手な子と一緒にいるんだから、目立たないはずがないんだ。不安と、経験したことのない華やかな毎日を想像して口角が思い切りあがった


「ふ」
「…ふ?」
「ふふっ」
「あ、笑った!」


これからが楽しみです


mae tsugi