何かと派手好きで、髪色に関しては特に。
いろんな色試してみたけど、一番パッときたのは赤。真っ赤ね、これでもかってくらいの。


「はあ、」
「なした〜?そんなため息ついて」
「また言われちゃったよ、軽そうだって」


派手髪にはメリットとデメリットがある。
とにかくインパクト、が私の考えるメリット。
そしてデメリット。軽そう、馬鹿そう、うるさそう。


「もう言われ飽きたよ、そーゆうの」
「ん?」
「軽そうとかさ、馬鹿っぽいとか。 見た目で判断しないでほしい」
「周りなんか、カンケーないべや」
「豹はいいね、男の子だし。 バスケうまいし」
「バスケはカンケーないべ」
「あるよ、大ありだよ」


だって豹はオレンジ髪で一見ばかっぽいけどさ、バスケめちゃくちゃ上手いから、馬鹿っぽいからカッコ良いに変わるじゃん?

もし豹が、バスケ下手だったら、ただのオレンジ野郎だよ?


「ただのオレンジ野郎って、きついべさ」
「だろ? ちなみに私にはこれと言った特技とかないし、勉強も並なので、ただのレッド野郎だよ」



レッド野郎って変なのー、なんて馬鹿そうに豹が笑った。


「豹はさー、いくつん時にオレンジ目覚めたの?」
「んーあんまし覚えてねーけっど、アメリカにいた時からオレンジだったべさ」
「へー…毛根心配だね…」
「ほっといてや」


あはは、と次に私が軽そうに笑った。
少しだけ高い笑い声は広い体育館には響かないようで、私と豹ふたりだけにしか聞こえなかった。

本来なら男女別で行う体育の授業。
男子の体育教師が体調不良でお休みのため、本日限定の男女混合。授業とはいっても体格も運動量も男女間では段違いなので事実上は自習。各々が自由にバスケやバトミントン、円陣バレーなどを楽しんでいる。



「そんなにさあ、劣等感持ってんなら、ナマエも何かやればいいべー」
「今さら何もやる気起きないっつの」


ダムダムとバスケットボールをついて、たまにシュートをする豹。放たれたボールの行方を見届けず、私に向き直ってまた唐突なことを……。


「まあ、ナマエ根性なさそーだもんなっ!」
「失礼ね、中学のときは相当先輩にしごかれたんだから」


しゅぱッ、お手本のようにリングを通過したボールは何回か弾みながら彼の手へと戻っていく。


「軽そうとか、馬鹿そうとか言われても、派手髪はやめられないんだなーこれが、」
「人それぞれ意見あるしね」
「豹みたいにトレードマークになればいいのに」
「ナマエだって、十分トレードマークになってるべさ」
「そうかあ?」
「俺、ナマエ探す時はまず一番に赤色探すもんね」
「あ?ほんとー」
「見つけやすいじゃんっ」
「嬉しい」


スリーポイントラインあたりに胡座をかく私に、彼がボールを転がした。それを両手で止めると、私の目の前に豹がしゃがみ込んだ。



「さらさら〜」
「これ保つの結構大変なの、もっと褒めて」
「ゆるウェーブかわいいー」
「豹のオレンジもかわいいー」
「かっこいいって言ってほしいダニ」
「んじゃあかっこいい」
「んじゃあ、って!」
「うふふ」


よくもまあ寮生活でここまで綺麗に色保ってるなあ、と関心する。見かけによらず案外まめなのかもしれない。


「よしよーし」
「なしてよしよし?」
「努力してますねー」
「ん?バスケ?」
「ちげーよ、髪色保つのだよ」
「そんなこと褒められたの初めてだや」
「あんたと私は同じ悩みを抱えてるからね」
「なんそれ」
「髪の痛みとの戦い」



ぶは! と豹が吹き出したのが妙に気に入らなくて、こっちは真面目に言ってるんですけど、と返してやった。


「ごめんごめん、そーゆう意味じゃなくてね」と私の手からボールを奪った豹を睨むと、それを人差し指で回しながら、「メリット追加、俺と同じ悩みを共有できる!」なんて満面の笑み。


「…はあ?」
「ほら!メリットあんじゃんっ!」
「じゃあ、豹のオレンジのメリットは?」
「んーとね、」



少し考えるような素振りをしたあと、私の髪を優しく撫でた彼は、



「俺らってさ、よく一緒にいんじゃんっ?んでさ、俺よく聞かれることがさ、『お前らって付き合ってんの?』なんダニ。 それに俺は付き合ってないって答えるんだけど、えー意外!みたいな反応されるわけ!ぎゃはは!」

「……えーと、それが何のメリット?」

「だーかーらー、俺らって似たもん同士だべ?同じ美的感覚ってことだべ?」

「ま、まあ、うん」

「俺のメリットは、ナマエが俺の彼女に見られるってとこ!ん、素晴らし!」



Attractive
(の魅力を知るのはだけでいい)
(ナマエの魅力を知るのはだけでいい)


笑い合う二人の声が、授業が終わるチャイムに混じって溶けた。

mae tsugi