「静のバカ!しね!」
「はぁ?なに言ってんだお前」
卒業式が終わった帰り道、後ろから騒がしいヤツが俺の名前を叫びながら走ってきた。あまりにも煩かったから仕方なく足を止めて振り返れば、やっと追いついた……と膝に手をつき肩で呼吸する女、その名もナマエ
一応、付き合っている
「楽しみにしてたのに!!ばか!」
「なんだようるせぇな」
「うるさいって何よ!?うるさいって!?」
「うるせぇのはうるせぇんだよ」
掴みかからんばかりに大声を張り上げて今にも泣きそうな顔をする。バカ?なんで俺がお前にバカ呼ばわりされなきゃいけないんだ、俺はお前に泣かれるようなことした覚えないぜ
「ってことだ、じゃあな」
「おォォい!」
「なんだよ」
「ふつー帰るか!?なあ!?ふつーそこで帰るか!?ああ!?」
「もう鼓膜破れそう、しかもなんでちょっとヤンキー口調なんだよ」
「うるせぇぇぇえええ!!!!!」
キーン
「………」
「………」
「てめーがうるせーよ」
「な!っんだとクソヤロー!!」
ついに胸ぐらを両手で掴んで前後に揺さぶってくるナマエ。今だにクソヤローなどと汚い言葉で罵りながらも、ちょっと泣きそうな顔をしている
時たま、なんでこんな煩くて下品な女と……と思うこともあるが、どうも俺はこの泣き顔に弱いらしい。ついに右目から零れる涙に、今まで反抗していた俺も消沈する
「くっ……静のばかやろお…」
「なんだってんだよ、俺なにもしてねーぞ」
「したもん、いっぱいしたもん」
「なんだよ、言ってみろ」
ぐずぐず、女の涙はどうも苦手だ。何度もこいつを泣かせてきてしまったが、対処の仕方なんてこれっぽっちも学習していない。卒業証書が入った筒とカバンを地面に置き、ポンポンと頭に手をやれば、やっとこさ話し出す
「うう……ぼたん」
「ボタン?」
「第二ボタン…」
「……ああ、これね」
自分のブレザーを見るとボタンと言えるものは一つもない。帰る途中、校門で待ち構えていたらしい女子たちにもぎ取られた。迷惑だった、うるせーし邪魔だし本当迷惑
俺にしてみればたかがボタン、しかしナマエにとってみれば大事なものなのだろうか?
「これがねぇ…」
さっぱりとしたブレザーの前開きを一撫でし、ごめんなと謝った。もういい、と可愛げないナマエに代わりと言ったらなんだが、とポケットに入っていたバッシュの紐を渡した
「なにこれ?」
「俺がバスケ始めて最初に履いてたバッシュの紐だ」
「なんで、これ…?」
「試合の時は持ち歩いてんだ、今はたまたま入ってた」
「……くれんの?」
「ボタンより希少価値あるぜ」
「うう…ありがと」
「静、大学でもバスケやるの?」
「オウ、応援来いよな」
ありふれた物よりも、
君には特別な物を
12.03.01
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