○花園兄弟

「ぎゃいあー!!」


今朝から花園家は騒がしい。


「百春!百春起きてよ!ねえ!」
「…っなんだよ、るっせーな」
「やばいんだって!マジ!」


この騒がしさの原因はコイツだ。
昆虫綱、ゴキブリ目、その名もゴキブリ


「だぁーー!百春やっつけてェェエエ!!」
「お前もうちっと静かに出来ねーの?」
「はやくしてぇぇええ!!」


百春は渋々布団から出て、彼女の部屋へ向かった。


「そこのね、クローゼットの近く…」
「どこだよ、いねーぞ?」
「え!なんでいないわけ!?ねえ!どこ行ったわけ!?」
「そりゃお前、俺の部屋で騒いでた時に逃げたんだろ?」
「ふざっけんな!見つけて!じゃなきゃ家燃やす!」
「お前がふざけんなよ!家は燃やすな!」


カサカサカサ…


「ギャアァァアア!!」
「おっ、そっちか!」


シュー

「もっと狙いなさいよ!逃げられてる!」
「寝起きで狙いが定まらねんだよっ」
「あー!早くー!逃げちゃう!」


ドアの方へ超高速で逃げていくゴキブリを、殺虫スプレーが追う。
今だ!二人がそう思っただろう。一瞬の隙を見せたゴキブリ、それが彼の運の尽き。
百春はここぞとばかりにスプレーを噴射しようとした。

が、その時


ドシンっ!


「…あ、お兄さま!」
「朝からお前は騒がしいな」
「ちがうの、ゴキブリ出て百春にやっつけてもらおうと思ったの」
「花園家の長女たるもの、昆虫一匹倒せんでどうする」
「…だって、怖いんだもん」


不恰好に止まった二人。目の前には千秋の足があり、自分たちの目に狂いがなければ、ゴキブリはきっと足の下で成仏してる。

…なんという猛者。


「でも百春なかなか倒せなくて、」

「百春!兄として恥ずかしいぞ!」

「ちげーよ!こいつが朝っぱらから騒ぎ立てたせいで、寝覚めがわりーんだ!俺悪くねーぞ!」

「はあ!?可愛い妹が困ってるっつのに、アンタ薄情っ」

「オメーなんか可愛くもなんともねー!!もっと兄貴を敬え!」

「敬ってるじゃん!ねえ、お兄さま」

「うむ」

「なんで千秋はお兄さまで、俺は百春なんだよ!」



「それはだな」「それはね〜」

「「お兄さまと呼ばれるに相応しくないから!」だ」


とある最強三兄妹のごくありふれた今朝のお話し。



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