煌びやかなネオンの看板を潜った。
すぐにずらりと並んだホストたちがいらっしゃいませ、とお辞儀をする。

「ご指名は?」
「特にありません」
「かしこまりいたしました。 お席ご案内致します」


通されたごく普通のソファー席。静かに今日の話し相手を待つと、彼は少しの間を置きテーブルの前に立った。


「初めまして、白石です」
「どうぞ、座って下さい」
「失礼します」


黒髪、切れ長の目、飾り気のない話し方と、よくホストがする愛想笑いを全くしない男性、というより青年。何故こんなところに?疑問が浮かんだ。


「ご注文どうしますか」
「適当で、白石さんの好きなやつでお願いします」
「じゃあ、水で」
「ぶ!水!?あなた水が好きなの?」

思わず吹いてしまった。どこに好きなものどうぞ、と言われて水を頼むホストがいるんだ。普通、そこそこ値段のする且つ美味しいお酒を頼むだろう。


「君には欲がないんですか?」
「ありません」
「あらまあ、」


本当に心の底からたまげてしまった。欲がないなんて、そんな人間いるのか。白石さんの瞳をみると、どこか悲しそうで、でも芯が強かった。綺麗な汚れのない黒色をしている。


「面白いですね」
「…なにがですか?」
「今までお会いしてきたホストさんたちとはまるで別。 てゆうか別格です」
「お褒め頂き、光栄です」
「……思ってないでしょ」
「…いや……」


何故彼がここにいるのか?分かりかねる。全然楽しくなさそうだ。お金のため?いやもし仮にそうだったとしたら先程の水、って…。


「ちゃんとお金払いますから」
「…は?」
「でも、仕事だからと繕うような態度はいいです」
「あの、なにが言いた、」
「敬語も、けっこーですから!」
「…は、はあ」
「下の名前を教えてください」
「………静、」
「静ね。 私はナマエです」


ちょっとだけ、あなたのことを知りたくなりました。教えてください。


「よし、で?」
「…は?」
「で、なにが飲みたいの?欲はなくても好みはあるでしょ」
「………強いて言えば、オレンジジュースが飲みたい」


私は上機嫌でボーイを呼ぶため、右手をあげた。

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