来店の音を知らせるチャイムが鳴った。

「ませー!」


黒を基調とした店のユニホームが彼のオレンジをより引き立たせている。


「お願いします」
「ほい!」


お茶とパン、そしていつも買うガムをレジへ出すと、彼は意外にもピッピと真面目に商品をスキャンしている。


「386円っすね!このガム俺も好きだべや」
「は、はい。 これ美味しいですよね」


急に話しかけられてビックリした。

「不破くん!お客様には敬語を使ってね!?あと方言は出さないでね!?ここ神奈川だから標準語ね!?」


続けざまに店長らしき人からお叱りを受け、怒られちった…と少し笑いながら袋詰めをする彼。

偶然目が行ったネームプレートには『フワ』と書いてある。珍しい苗字だなあ。


「1000円から〜」
「……」
「614円お返しさね、ほい!」
「あ、どうも…」


お釣りを財布にしまって商品を手に持った。フワさんにどうもと一礼して足早に立ち去ろうとしたら、後ろから待ってや!と声が聞こえて慌てて振り返る。


「これおまけ!」


彼がレジから乗り出して私に差し出したそれは青い包み紙のチュッパチャップス。見たところコーラ味だ。


「いいんですか?」
「これあげるから明日も来てや〜」
「……ふふ、分かりました」



言葉の意味を理解して数秒、ニィッと笑ったせいで見えたフワさんの歯に、私も自然と頬が緩んだ。


「じゃ、じゃあこれ、ガムあげます」
「おおっ、ありがとさん!」


また明日、そう言ってフワさんと別れる。



「ガム食べないで!?」

自動ドアが開いたころ、ぷりぷり怒った店長さんの声が聞こえて、密かに肩を揺らした。

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