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豹がお風呂に入っている間、テレビの機械的な音と映像だけを感じ、豹のベッドに寝転がった。
ふかふか、豹のにおいがする。
真っ白い天井を眺めているうちに瞼が落ちた。


:


「ごめんね、お仕事だから許してね」
「すぐ戻ってくるからな」
「良い子にしててね」

顔が見えない。靄のようなもので隠れてしまっている。

「待っててな、ナマエ」
「お義母さんよろしくお願いします」

そっと頭に置かれた手はゴツゴツしていて、大きく重かった。

「パパ…」

過去にこんなことがあった気がした。

パパに優しく頭を撫でられて、その時は何を言っているのか理解できなかったけど、きっとこんな感じの台詞。
ママも寂しそうな顔をしていたけど、あの時はそれが何故なのか分からなかった。
気づけなかった、幼かった私は。

「あの、パパ…ママ…わたし、」


両親が事故で死んだこともよく分からない。
13になった今でも、両親の死に実感がないなんてのは親不孝なのだろうか。

「…顔が、思い出せない…んです」

訳もわからないうちに、両親は私の側からいなくなっていた。
その代わり、私の側にはいつも豹がいた。
彼の両親にも、たくさんの愛情をもらっている。
毎日おいしいご飯が食べれて、豹と同じように必要な物は与えてもらっている。実の娘のように、育ててくれる。
そんな有り難い環境で生きてきて、私は忘れてしまったみたいだ。

「……あの、」
「パパとママを、許してくれ」
「ナマエ、たまには会いにきてね。 ヒョウくんも一緒に……」

再びパパに頭を撫でられ、そのまま二人は消えてしまった。


:


「……ひょう?」
「わり、起こしちった」
「私寝ちゃってたんだ…」
「すやすや寝てたべや」
「ごめんねベッド独占しちゃってたね」
「髪…」
「髪?」
「髪あんがと」
「あ、いいえ、どういたしまして。 綺麗に染まってるみたいで良かった」


そういえば、会いに行ってない……。