※未来設定
朝日の光がカーテンの隙間から差し込む。少しだけ暗い部屋には眩しい一筋の光だった。
今日も私はベッドから出ることは許されてない。それは小さい頃から身体が弱いからだ。
そんな私の部屋に扉をノックする音が響く。返事をすると扉が開き、人が入ってくる。
「奥様、おはようございます。今、カーテンを開けますね。」
入ってきたのは数人のメイド。カーテンやら、朝食やらといそいそと準備をしていく。テキパキと慣れた手つきで彼女らは作業を進める。私はそれをベッド上から見ていることしかすることがなかった。
「先程、奥様にお電話がありました。」
「誰から?」
「旦那様からでございます。」
「な、何て言ってたの!?」
身を乗り出し、彼女に問い詰める。彼女は最初は驚きはしたが、私をベッドへ戻すと話してくれた。
「お昼頃に此方に到着するとの事でした。雪男様とシュラ様もご一緒でございます。」
ああ、やっと帰ってくる。
そう思うと、長い間会っていない彼を恋しく思ってしまう。実際には数日間だったが、私にとっては長い長い時間だった。
数日前に彼は祓魔師という、悪魔を祓う仕事に行ってしまった。
最初は、悪魔と無関係だったことからそれがどれ程危険な仕事かわからなかった。
昔、彼が任務と言ってなかなか帰って来なかった時、その頃は何も知らなかった私は、傷だらけ帰ってきた彼の姿に驚いたのだ。
それからか、私は彼が祓魔師の任務に行く度に不安な気持ちになる。無事に生きて帰ってきてほしいし、怪我もしないで帰ってきてほしかった。
「今回も……怪我をしているのでしょうね。」
「奥様、旦那様を信じて待ちましょう。」
「………そうね。」
―――――――
「雪ー帰ったよー」
「シュラさん、人の家ですよ!」
「何だよ、雪男。アタシの雪がいる家はアタシの家に決まってるじゃない。」
扉を開けて入ってきたのは、祓魔師のコートに身を包んだシュラさんと雪男くんだった。
しかし、入ってきたのは2人だけ。私のお目当ての人がいなかった。
「あ、あの…………」
「雪、」
「シュラ…さん……?そんな、まさかっ!?」
真剣な顔で私を見るシュラさんに、私は最悪の事態を想像した。私の言葉に何にも返してこないシュラさんに不安がつのるばかりだ。
「………シュラさん?」
「すまない、…雪。あいつは…………あだっ」
バシッと痛そうな音が部屋に響き渡る。
私は目を丸くして目の前の状況を理解しようとする。近くでは雪男くんが大きなため息をついていた。
「てめぇ、勝手に俺を殺すな!」
「にゃはははは!だって雪の反応が面白くってつい☆」
「はぁ………」
「り、りんッ………」
ギョッとしたような様子で私の元に慌てて駆け寄る燐。
後ろではシュラさんが雪男くんに怒られているのが見える。
「雪、泣くなって。な、落ち着け…マジで、頼む。」
「だっ……だって、シュラさんが………」
「…ったく…俺がお前の涙に弱いって知ってるだろ?」
ふわり、と彼の匂いが近づく。ギュッと体を抱き締められたのだと気づくのに数秒かかった。
「ただいま、雪。」
「おかえりなさい、燐。」
愛しの旦那様、おかえりなさい
(夫婦だからってアタシの雪に何すんのさ)
(あ、てめっシュラ!!雪を返せ!)
(兄さんもシュラさんも、雪さんを安静にしなきゃ駄目じゃないか。)
20110702
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