「泣きすぎ」
涙を流しすぎた蒼は、じんわり赤く染まって見えた。
まるでうさぎだ、なんて思う。
1人ぼっちの寂しがり屋が、枯れるほど涙を流した、跡。
「お前さんが気にすることじゃないだろォ?」
いっそ、恨んでくれても良いのに。
記憶も思いも、何もかもを奪われてしまうのだから。
最低だと罵ってくれた方が、ずっと楽なのかもしれない。
「なァ」
サブローは何も言わない。
ただ、無表情のその頬を、新しい雫が1つ、音もなく滑っていった。
「そんなことない」
泣いていても、声はひどく落ち着いていた。
静かで、透明で、滔々と流れる声音。
「きっと苦しいよ。忘れないのは」
忘れられる身が、そんなことを心配するのか。
「クルルが、これから先もずっとずっと、苦しい思いで生きていくのは嫌だよ」
お互いに、わかっている。
懐かしい思い出も、愛しい心も、幸せも、それを奪っていく罪悪感も。
いつまでも、クルルの心を占めたまま、これから長い時間を生きていく。
(俺はそれでも構わないのに)
こつり、と額をあわせる。
じんわりと伝わる熱と、すぐそばで感じる呼吸の音。
そんなことですら、忘れたくないと思うんだから。
忘れたくないくらいに、愛しいと思うから。
「大丈夫だ」
ちゃんと抱えていく。
時には、辛くて泣きたくなるかもしれないけれど。
己が抱いているものが、幸せな記憶だと、ちゃんと分かっているから。
「お前さんから奪う分は、ちゃんと持っててやるさ」
だから。
(忘れないで、と言ってくれたらいい)
***
どはら様へ25000hit記念でした。
リクエストは『電波のシリアス』。
クルルには、記憶を奪う罪悪感がどこかにあったらいい。
2009,12,26