サブローと会わずに数週間、仕事に没頭した。
やることを全部片付けて大きく息をついた後、いそいそとラボを出て、彼の家に向かう。
今日は収録もないだろうから、家にいるだろうという予想は的中。
だけど。


「あー…久しぶり」
「…何してんだお前」


しっちゃかめっちゃかに跳ねた髪と、真っ赤な頬。
ベッドの中から随分弱々しい声がして、なるほど、知らないうちにまた風邪を引いていたらしい。


「バカなのかァ?」
「…今回は倒れてないよ」


ちゃんと寝てたんだから、とむくれて抗議する。
しかし、ベッドの周りにあるのは市販の薬のみで、タオルも氷もない。
キッチンも綺麗すぎて、食事をほとんどしていないのが分かる。
自然と眉間に皺が寄った。


「さっさと呼べよ」
「んー…」
「寝てても治らねェとか、貧弱だなァ」
「クルルにだけは、言われたくない」


ベッドの端に腰掛けて、久々の相棒を覗き込む。
呼吸も少し苦しげで、あまり調子は良さそうには見えない。


「とりあえず飯か…」


普通ならカレーを作るところだけれど、今のサブローには辛いかもしれない。
陰険と呼ばれる自身が、自然とそんな気遣いができてしまうことに、クルルは我ながら呆れてしまった。
何の変哲もないお粥とか。そんなものを作ったと知ったら、小隊の皆は仰天しそうだ。
キッチンに向かおうと立ち上がりかけて、小さく引かれる感覚に、動きが止まる。


「どうした?」


白衣の端を引っ張る手。
何か言いたげな瞳が、ちらとこちらを向く。
その瞳を見ただけで何が言いたいか分かってしまったけれど、あえてクルルは口にしない。
せっかくだから、直接彼に言ってほしくて。
立ち上がるのをやめて、口角を上げた。


「言いたいことがあるなら言ってみなァ?」
「…分かってるじゃん」
「分かんねェな〜?」
「うそつき…」


互いにバレバレ。
先に折れたのはサブローだった。
たどたどしい小声が、彼の心を乗せて零れる。


「さ、びしい…」
「サブロー、」
「…かも、しれない…?」
「…なんで聞くんだよ」


珍しい本音も、本音だか、そうじゃないんだか。
期待した言葉についてきたはてなに、がっくりと頭を垂れる。
ここで素直に甘えてほしいと思った、なんて、さすがに言えなかった。


「よく分かんないや」
「…分かれよ、この寂しんぼうが」


ぽんと軽く小突いて、今度こそ立ち上がる。


「正直に言えなきゃ、飯は出せないぜェ?」
「…もう言ったよ、クルルのばか」


頭を押さえつつ、サブローが困った声を出して、それでも笑う。


「クックック」


弱った彼から笑い声が出たことに、心底安心したのは内緒。




***

A'様へ27326hit記念でした。
リクエストは『クルサブで風邪ネタ』。

サブローくんの滅多に聞けない本音が、クルルには嬉しいのです。

2010,1,24
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