彼が、とても整った顔立ちをしているというのは、よーく知っていて。
彼の笑顔に、女性がすぐに色めき立つことも、大いに分かっていて。


(綺麗、だとは思うけど)


彼はいつだって、たくさんの人(妖怪?)に囲まれている。
いろんな意味で好意を向けられていることに、イタクは何となく気付いている。
はたして、首無は気づいているのだろうか。


(分かってんだろうけど)


いつもみたいにきらきらした笑顔。
人の中ではなく、少し離れたところから眺めつつ、イタクは無意識に舌打ちを1つ。
胸の内が、もやもやと落ち着かない。


(なんだこれ)


気に入らないのだろうか。
他人にそうして笑顔を向けていることが?
首無が、分かっているはずなのに気にしていないことが?
分からない。
自分の心のはずなのに。


「…あ」


ふ、と遠くの彼と目が合って。
首無が微笑んだ。


「……」


他と変わらない笑顔ではあったけれど、それは、イタクだけに向いていた。
たった1人にだけ、笑ってみせていた。
それだけなのに、イタクの心がすっと静まっていく。


「…どこまで分かってやってんだ」


目が合ったのは一瞬だったけれど、鮮やかに焼きついたそれ。
とくとくと騒ぎ始めた鼓動にも、分かっているくせに気付かぬふりをしている彼にも。
呆れて大きくため息をついた。




***
自分の顔も周りの視線も、イタクの気持ちもばっちり分かっている首無さん。

2014.12.12
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