(クルル合流後)
「それじゃあまたね」
そう言ったとき、何故だか、少しだけ寂しそうに見えた。
それを見て、ほんの少しだけ、サブローのことを心配した、のかもしれない。
ものの数時間でクルルの移住地となるラボが完成。前から準備をしていたし、天才だという自負もある。
手を止めて、真新しい椅子に座って、息を吐いた。
「ま、悪くない出来だな」
高い天井。慣れ親しんだ機械の機動音。薄暗さと、冷却のためのひやりとした空気。
生まれてから大半の時間を費やした研究室、という場所。
慣れているから、落ち着く。けれど、真逆の風景がちらりと頭をかすめた。
「…クク」
当たり前に明るい部屋。出会って数ヶ月を、サブローの家で過ごした。
居心地は悪くなかったと思う。
何よりも、相棒と過ごす時間は、心地よかった。
また、寂しげな表情が脳裏を掠める。
「寂しがり屋だからなァ、あいつも」
様子を見にいってやるか、とクルルは背もたれから体を起こした。
「あれ、クルルじゃん」
「……」
連絡もよこさず彼の家を訪れると、いたって普通のサブローの笑顔。
うきうきとしているのは、食事の準備をしているからか。
「なに、もう皆とケンカしちゃったとか?」
「…いんや」
「あ、分かった、寂しくなったんだろ」
「……」
「当たりかな?ねぇクルル、クルル…って」
「ククッ」
うるさく追求してくるサブローの頭を軽くはたく。
何が寂しくなった、だ。寂しがっていたのはどうせお前だろう。
しかし、サブローとは違って大人なクルルは、そんな言葉を器用に飲み込むことにした。
代わりに、ため息を1つ。
(これじゃあ、寂しがってたのが俺みてェじゃねェか)
「寂しんぼなクルルくん、ご飯食べてくでしょ?」
「クックック、しょうがねェから食ってやるよ」
ふんふんと嬉しげにキッチンに引っ込む。
匂いですぐに気がついた。カレーだ。
「ナイスタイミング、かな♪」
そそくさとカレーを用意するサブローが、楽しそうに見えるのは。
いや、サブローが1人でカレーを食べようとしていたのは。
至った考えに、クルルは口角を上げた。
「寂しがり屋なガキだぜェ」
自分のことは棚に上げて、クルルは小声で呟いた。
***
別れた直後だけ、寂しがってればいい。
だんだんとこの距離感に慣れていけばいい。
2014.2.1