にこり、といつもみたいに笑った。
それは普段よく見るような、ふわりとした柔らかなそれ。
きっと、誰も違和感なんてもたないだろう。
サブローの本当の気持ちも表情にも、気付かずに。
けれど、クルルはそれを見て顔をしかめた。
「…変な顔」
「ひどいなぁ」
手を伸ばして、頬を撫でる。
そのまま指先で目元をなぞると、ほんの少し肩が動いた。
それでも、笑顔はぶれないまま。
「泣いたのかィ」
「んー」
うん、とも、ううん、ともとれるような、曖昧な音。
「分かりやすすぎだぜェ」
「そうかな」
誰も気付かないのにね、なんて言って、笑う顔が見ていられなくて。
頬に触れていた手を、サブローの後頭部に回して、己の方にとんと押す。
ぽすんと抵抗なく白衣に顔が埋まった。
笑顔は、もう見えない。
「こういうところは、不器用だなァ、お前」
「…知ってる」
白衣を握る手のひらと、大きく息を吸い込む音。
きっともう、笑うのはやめたはず。
だから。
「誰にも見えねェから」
思い切り泣いていいよ、と。
こんな不器用な泣き方しかできない彼のために、泣き場所になってもいいなんて、柄にもないことを考えた。
***
涙を隠してしまうサブローくんと、お見通しなクルルとか。
2014.9.1