「…俺は戦闘要員じゃねェんだよなァ」


散々な自分の姿を再確認しながら、クルルは不満げに呟いた。
天気は雨。
気まぐれに外に出た夜、クルルは敵性宇宙人に遭遇してしまったのである。


「痛ェ…」


うまく逃げたつもりだったけれど、弾丸が掠めたか、白衣の左腕は赤に染まっている。
路地裏の隅に座り込み、できる限りの止血をしながら、舌打ち1つ。
雨に濡れた金髪が、頬に張り付いた。


(らしくないのに)


確かに、普段は参謀として後方支援に回ってはいるけれど、戦えないわけではない。
体力はなくとも、技術は確かにある。
相手は集団だったが、電撃を放つなり、毒電波を流すなり、できたはずなのに。
相手の発した一言が、ケロン星一の天才の思考を、いとも簡単に止めてしまった。


『あの子供が、どうなっても―』


「…っ!」


びくりと身体が震えた気がした。
傷の痛みか、雨による寒さか、それとも、あの言葉のせいか。
どうして、あの言葉が、こんなに重く響いているのだろう。


(まず、状況を確認。基地の隊長と連絡をとるべきか。あと、サブローの安全を確保して、それから…)


なんとか冷静に結ぼうとした思考が、また大きくぶれた。
たくさんの足音。こちらに向かってくる。


「どうする…」


ヘッドフォンに手を添える。
毒電波も電撃も、今すぐに出せる。
でも、でも、もし。


(サブローが)


どうして手が震える。
なんで、


「あ…」


見つかった。
ヘッドフォンに添えた手が、凍りついた。


(どうしたら)



「―クルル」


柔らかな呼び声と、につかわしくない派手な爆発音。
たった今まで危惧していたその人が、突然空から降ってきた。


「お前、」
「探したよクルル。見つかってよかった」


ふわりとサブローが笑う。
凛とした蒼は、真っ直ぐに相手を見据えていた。


「追いかけてこないでよ」









「大丈夫?」
「大したことないぜェ〜」


雨の中でも元気に飛ぶ紙飛行機の上。
路地裏から脱出した2人は、ふわふわと空を飛んでいた。
今頃路地裏は、サブローが撒き散らした煙球のイラストによって混乱状態だ。


「軍曹たちが、さっきの場所向かってるから。倒してくれるよ。皆心配してたから…」
「…お前は何ともないのか?」
「俺は大丈夫だよ」


本当に何もなかったのか、サブローが自力でなんとかしたのか。
うまく読み取れないほどに、まだクルルの頭は混乱しているのかもしれない。


「クルル、眠っていいよ。後は任せて」
「…ク」


いつになく素直に、こてんとサブローの背に頭を預ける。
頬から伝わる温もりが、じんわりと心に沁みた。
それがすごく大切なもののような気がして、大きく息を吸い込んだ。


(あぁ、大事なものなんだ)




***
葵様へ32623hit記念でした。
リクエストは『絶体絶命なクルルを助ける小隊&サブロー』

クルルが思う以上に、サブローくんはクルルの弱点になってるといい。

2010,4,2
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