ううう、と弱々しい声を上げる相棒を見て、呆れを込めてため息をつく。


「…ま、ちゃんと病院行って寝込んでるだけ上出来だな」
「うるさい」


熱があっても平気で学校や仕事にいってしまう、なんて姿を見慣れてしまったからか。
素直にベッドに納まっている彼は、いつにもましておとなしく見えた。
曰く、インフルエンザだとか。
浮世離れして見えるサブローだったけれど、普通の子供であることに変わりはなかったらしい。


「頭痛い。熱い。でも寒気がする」
「重症じゃねェか」
「…クルル、うつるよ」


ちらりとこちらを見る瞳は、うつることを心配している反面、どこか寂しげで。
こういう瞳にクルルが弱いということを、彼はどこかで知っているのではないか、なんてクルルはほんの少し考えた。


「地球のウイルスなんざに負けるわけねェだろ?」
「そうかも…」
「いいから、さっさと治しなァ」


ぽんと髪を撫でると、サブローは嬉しそうな顔をした。


(…しかし、まァ)


病に臥せった相棒には申し訳ないけれど、クルルは深刻に悩んでいることがある。


(どうしようかねェ)


熱で火照った赤い頬とか。
潤んだ瞳だとか。
頭痛のせいか、時々漏れる小さな呻きも。
熱を孕んだ吐息も。
ぐったりしたその姿も。
1つ1つが、クルルを誘っているようで、いけない。
だめだ。


「あー…」


我慢だ。
ここで手を出して、容態が悪化するのはまずい。
何より、サブローに怒られるかもしれない。
でも、正直襲ってやりたい、気もする。
だめだ、だめだ。


「…クルル」
「んー?」


何も言わずに、サブローの温度の高い指先が、きゅうと白衣を握りしめた。
くらりと、理性が揺れる。
思わず緩みそうになった口元を押さえて、クルルは必死に目を逸らした。
だめだ、だめだ、だめだ。


「サブロー」
「何?」
「…早く治せ」
「がんばる、よ」


ふにゃりとした笑顔。
いつまでこんな時間が続くのかと、自分の我慢強さを思う。


「治ったら、好きにさせてもらうからなァ」


ぼそりと零れた低い呟きは、頭痛に唸っていたサブローには届かなかったらしい。



***
命歌様へ35326hit記念でした。
リクエストは『インフルエンザになったサブロー』

治った後もサブローくんは大変です。

2010,4,2
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