どうでもいいことばかりに目がいってしまう。
多分、いつもだったら気にもしないこと。
彼と彼女でなかったら、いつも通りでいられたようなこと。


(うーん)


仕事の話をする、クルルとモア。
ラボの片隅に設置したソファの上で、それをぼんやりと眺めている、自分。
どうしてか、胸の内がかさついているような気がして。


(綺麗なんだよね)


クルルとは正反対で、光と影とまで言われるほどで。
純真無垢で、疑うことを知らなくて、嘘も偽りもない、まっすぐな笑顔。
誰の目にも、彼女は綺麗に見えるはずだ。
外見だけでなくて、心根までも。


(あ、)


モアの細い指先が、クルルの前髪についと触れた。
とても自然な動き。
けれど、睦実は少しばかり大きく反応してしまう。
してしまってから、何故だかものすごく後悔してしまった。


(なんで)


髪に触れたのは、目元にかかったクルルの髪を分けてやるため。
モアには邪念なんてどこにもないし、クルルだってきっと何も思っていない、はず。
なんだか、自分だけが意地悪な眼差しで2人を見ているような気がして。


(もやもやするなぁ)









「―睦実」
「!」
「何ぼんやりしてるんだァ?」


いろいろなことを考えて、上の空になっていたのか。
耳元で名前を呼ばれ、唐突に我に返った。
目の前には、怪訝そうな顔をしたクルルがいる。


「モアちゃんは?」
「おじ様のところに行っちまったぜェ」
「あぁ、そう…!」


ぐしゃ、と少し乱暴に髪をかき回すのは、クルルの手のひら。
クックック、とお決まりの笑い声と共に、にやりと口角が上がった。


「嫉妬なんて子供っぽい真似してんじゃねェよ」
「んー…」


お見通し、なのだろうか。
嫉妬していたことも、バレてしまったことも、なんだか子供っぽい。
そんな恥ずかしさも、気づいてくれた嬉しさも、ごまかすように彼の白衣を引っ張った。


「してないよ」
「ふーん」


彼女がそうしていたように、クルルの指先が、乱れた前髪をすいと梳いた。



***
セイ様へ37966hit記念でした。
リクエストは『モアにやきもち妬く睦実』

モアちゃんが綺麗すぎて、もやっとしてしまったのでした。

2010,4,4
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