己の顔がぐっと険しくなったのが、自分でも分かった。
それが何に対する感情なのかは、定かではないけれど。


「怪我の具合はどうなんだ」
「大したことないよ。全然。大丈夫」
「貴様の大丈夫は当てにならん」


苦笑する顔はいつも見かけるそれ。
けれど、じっとり浮かんだ汗と、常より白い顔色は、大丈夫と言えるものではなさそうで。
ギロロの指摘は尤もだ、と珍しくクルルは素直に考えた。


「他の皆は無事でござるか?」
「うん。サブローさんが庇ってくれたから…」


ぴきり、と頬が引きつる。
要するに、また彼は自分の身を省みずに誰かを守ろうとしたということだ。
あれだけ何度も、己を大事にしろと叱ったというのに、である。


「クルル殿…」


何も言わずに、サブローの元へと歩みを進める。
目が合った彼は、まるで悪戯が見つかった子供のような顔をした。
怒られると思ったか、小さく肩をすくめる仕草は、どうにも今の状況にはそぐわない。


「クルル、」
「いいから」


くしゃりと髪を撫でる手も、低めの己の声も口調も、存外優しいものだった。
そこで初めて、胸の内をかき乱していた苛々が、彼に向けてのものでなかったことに気づく。
丸くなった蒼い瞳と、視線が重なった。


「いい子にしてなァ。お仕置きと説教はその後だぜェ〜」
「…はい」


一転して、からかうような声音と口調は、いつものまま。
くるりと彼に背を向けて、ゆっくりと歩き出す。
向かう先には、戦っている相手がいる。


「クックック」


ヘッドホンから、バチリと電流が走る音。
この苛々をぶつけるには、丁度いい相手かもしれない。


「……クルル、こっわ」
「確かに」


ぼそりと零れた緑の隊長の言葉に、小隊は小さく同意した。




***

赤月聖様へ相互記念でした。
リクエストは『皆を庇ってケガをするサブローと、それに激怒する小隊』でした。
クルルは相当凶悪な顔をしてたんだと思います。

2010,4,18
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