がたん、と大きな音。
それが自分が押し倒された音なのか、机に置いてあったグラスが倒れた音なのか。
天井とクルルの顔を眺めながら、そんなことを考えた。
(両方かなぁ)
視界の端に、ぱたぱたと机から落ちる雫が映りこむ。
飲もうと思って置いていたアイスコーヒーの成れの果て。
ホットじゃなくて良かった、なんてしょうもないことに安心した。
「……っ」
首筋に、チリ、と小さな痛み。
もそもそと見慣れた金髪が揺れている。
そこだと、跡見えるんじゃないの。冬だったら隠しやすいのに、どうしようか。明日何着たらいいんだろう。制服だとまずいかな。うーん。
「…いたっ」
「何考えてるんだィ?」
つらつら流れていた思考が、先ほどよりも少し強い痛みで途切れる。
噛まれたらしい。
クルルが不機嫌そうな顔をして、こちらを半眼で睨んでいた。
「なんでもないよ」
視界の隅の雫はまだ止まらない。
まだ一口しか飲んでいなかったから、グラスの中はたくさん残ってたはず。
もったいない。どうしてくれようか。ひんやりして、おいしかったのに。
「ひゃっ」
パタパタという音を拾っていた耳に、突然の衝撃。
甘噛みされて、ふぅっと息を吹き込まれて、身体がぞくぞくと震える。
耳はだめだ。ちょっとしたことでも、すぐに変な感じになる。
「どこ見てる?」
「ん…と、クルルとか?」
「嘘つけ」
適当な返事はすぐに蹴られてしまう。
クルルの、いつもより鋭い光を灯した紅色の瞳がちらりと横を向いた。
なんてことのないため息が、耳にかかって、熱に変わる。
「コーヒー、後で淹れ直してやるから」
「ん、ん」
「今はこっちに集中しなァ」
少し強引に重なった唇に、一気に思考がクルルで埋まった。
もう、雫が落ちる音は聞こえない。
***
クルルさんは熱心なのに、ぼーっとしてるサブローくん。
2014.9.11