つくづく、難儀な性格をしていると思った。
「よっと」
真夜中もとうに過ぎた暗い空を、紙飛行機が風を切って飛んだ。
時折、上下左右に動きながら鮮やかに攻撃を避ける。
その後ろからには、正体不明の何かが複数。
「どうしようかなぁ」
何かと出くわしたのは、ラジオ局の帰り道。
闇に包まれた空を、何かが飛んでいくのが見えたのだ。
敵だ、と感じたのは直感でしかないけれど、己のそうした感覚が確かだということは、これまでの経験で学んでいる。
それの向かう先が日向家のある方向だと気づいた地点で、それは確信へと変わった。
実体化ペンで攻撃をしかけ、それらの目が全て、サブロー1人に向けられてからは、一方的な追いかけっこ状態になっていた。
「それ」
紙飛行機が西澤タワーに近づいた瞬間に、ふわりと飛び移る。
途端に周りを囲まれてしまうが、サブローはひるまない。
スケッチブックと実体化ペン。
蒼い瞳が、凛と光った。
(本当は、向いてないんだけれど)
サブロー自身は、戦闘向けというよりは後方支援タイプだと考えている。
実体化ペンは何でも出せるけれど、破壊力や威力はそこまで強くないのだ。
いや、サブローの描くものにそこまでの攻撃性がないだけなのかもしれないけれど。
それでもこうして体を張ろうとしてしまうのは、得難い友人のため。
日向家の姉弟を、西澤家の令嬢を、くのいちの少女を。
相棒の大切な仲間を、そして相棒自身を。
なくしたくない。守りたい。
あの時も、そう思ったのだ。
(また、怒られるかなぁ)
以前、音を奪う宇宙人と戦ったときに、サブローは皆に叱られてしまったのだ。
自分を大事にしろと言われた。
助けを呼べと言われた。
1人で抱えるなとも言われた。
分かっている。分かってはいるのだ。
けれど。
誰かに助けを求めることが苦手で。
自分のことより、誰かを優先してしまって。
あれだけ反省したはずなのに、今日もまた、繰り返してしまっていた。
(また、)
己は余程懲りていないのだろうか、とあの日に似た状況の中で思う。
爆発に弾かれるようにスケッチブックが手から離れる。
吹き飛ばされるままに、サブローの身が空中に投げ出される。
その先にあるのは、何もない空間だ。
(あぁ)
あの時。
皆に叱られた。
ギロロには怒鳴られるし、夏美には泣かれてしまった。
冬樹には涙目で睨まれて、ケロロにはしがみつかれて。
ドロロに諭されたときは、柄にもなく反省した。
他人に、こんな風に情を向けられたのは初めてだと、ぼんやりと感じたりした。
あの時。
初めて、クルルの脆い表情を見た。
次は必ず呼べ、と珍しい声音で言われたことを思い出す。
あの瞬間が、一番胸が苦しかったのかもしれない。
なのに、また繰り返していた。
相変わらず自分を大切にできなくて。
また、誰かのために身を投げ出した。
それでも、あの日と決定的に違うのは。
「クルル」
死にたくない、と思ったこと。
慣れない言葉を、風の音にかき消されてしまわぬように、声にした。
「たすけて」
どさりと鈍い音。
浮遊感が一気に消えて、視界いっぱいに見慣れた白衣。
彼は、少しだけ笑った顔をしていた。
「間に合ったぜェ?サブロー」
「…クルル?」
飛行ユニットを装着したクルルに、しっかりと抱きとめられていた。
視線を上に向けると、よく知る4色が交戦中だ。
「1人で何やってんだ」
「うん…」
大きく息を吐いて、サブローはぎゅっと目の前の相棒にしがみつく。
「クルル、俺」
「ん?」
「…言えたよ」
「ククッ…上出来だぜェ」
相変わらず、無茶な性格ではあるけれど。
性格なんて、簡単には変えられないと分かってはいるけれど。
あの日とは違うと、胸を張れる気がして。
(本当に、たすけてくれた)
頭を撫でられる感触に、ほろりと笑みが微かにこぼれた。
***
静戦の時から、少しだけ変われたサブローくん。
遅刻ながらも3月26日記念でした
2014.4.1