しとしとと降る雨は、梅雨だから仕方ないのかもしれない。
傘の下で、睦実の頭に乗ったクルルがだるそうに揺れていた。
「クぅ」
「クルルは湿気で酔ったりしないの?」
「俺は隊長ほど弱くはねェんでね」
2人でおいしいカレーパンを買いに行こうと決めたのは1時間前。
嫌がるクルルを抱き上げて、久しぶりに2人でおでかけ。
今日はケロン体で良かった。
「クルル、ちょっと痛い」
「痛がれ」
「えぇ、嫌だよ」
頭の上に乗っていたクルルが意地悪に笑いつつ、もぞもぞと動いて痛くないような位置を探している。
素直じゃない、そんなところがなんだかかわいくて、自然と笑みがこぼれた。
「…ふふ♪」
足音と、静かな雨の音。
同じ傘の下で、なんだか2人の世界みたい。
そんな些細なことですら、なんだか嬉しかった。
何しろ、クルルと一緒に外を歩くなんて、滅多にないことなのだから。
「ん…?」
「どうしたの?」
急にクルルが不思議そうな声を出した。
足を止めてちらっとクルルを見ると、クルルは不思議そうにどこかを見ている。
「クルル、」
「あれ」
「?」
クルルが指差す方向には、いくつもの青い色。
紫陽花だ。
「……」
「クルル、紫陽花好きなの?」
「…別に」
そっと紫陽花に近づいた。
紫と青の綺麗な花。
「綺麗だね、クルル」
「……」
「雨の時期に咲く花なんだよ」
紫陽花のそばにしゃがみこむと、クルルが無言で紫陽花に手を伸ばす。
ちょいちょい、と指先で触れた。
クルルが花に興味を持つなんて、珍しい。
「そんなに気に入った?」
「まぁ、」
「持って帰りたいの?」
「別にィ」
「そうだね。折るのはかわいそうだし」
それでもじっと紫陽花を見つめるクルルは、なんだか名残惜しいというか、そんな感じで。
そんなに紫陽花が気に入ったのか。
「クルル、いいものあげようか」
「は?」
スケッチブックを取り出して、ペンを走らせた。
ぽん、と現れたのは紫陽花が1つ。
少し小振りで、でも綺麗な青に染まったもの。
「はいどうぞ♪」
「……」
「何?いらなかった?」
「……」
じっと紫陽花を見つめるクルルは黙ったまま。
何故クルルは、この花が好きなんだろう、なんてことを、睦実はふと考えた。
「クルルはさ、なんで紫陽花がお気に入りなの?」
クルルは、ちらっと睦実を見て、また紫陽花を見つめて呟いた。
「お前の色に似てるから」
「え…と、それ、何の色?」
「お前の目」
言いながら、クルルは貰った紫陽花を睦実の髪に刺している。
さらりと言われた言葉を頭で繰り返しているうちに、なんだか睦実の方が恥ずかしくなってきた。
紫陽花が好きなのは、睦実の瞳に似ているから。
だから、その。
「ば、か」
小さな照れ隠しの言葉は、雨の音の中に消えた。
***
623の日記念でした。
クルルはもう睦実君にかかわることならなんでも大歓迎になりつつあります。
2010.6.27