「イタク、デートに行こう」
「でーと?」


若菜から買い物を頼まれた首無が爽やかな笑顔でイタクを誘ったのが、昨日のこと。


「イタクは街に出たことはある?」
「全然」


京都の出入りや百物語組との戦いで都会を知ってはいるが、人間に化けて人ごみに紛れたことはない。
なので。


「似合ってるよ、その服」
「…落ち着かねぇ」
「すぐ慣れるよ」
「お前は馴染んでるな…」


その日のイタクは普通の現代服(若菜さんコーディネート)である。
都会に行くなら普通の格好で、ということでいつもの6本の鎌も本家に置いてきた。
対する首無も現代服だが当然のように違和感がなく、江戸生まれとは思えぬ現代っ子である。


「行こうか、イタク」
「おう…」


そんな風にして、翌日2人は都会に繰り出した。











「…!」


その日は休日だったせいか、向かったショッピングセンターはなかなかの込み具合だった。
人ごみにひたすら驚くイタクを尻目に、首無は若菜にもらったメモを見ながらきょろきょろしている。


「首無、どこに行ったらいいんだ」
「台所用品…あ、あっちか」
「は、あっち?」


目標の品に目星をつけたか、首無はするりと慣れたように人の間をすり抜けて進み始める。
イタクはなんとかその後をついていこうとするも、止まらない人の流れに阻まれて、はぐれてしまうまでに時間はかからなかった。


「首無?」


気づけばあの金色の髪の後姿はどこにも見えなくなっていた。
冗談じゃない、とイタクは小さく唇を噛む。
初めての人ごみにいきなり1人放り出されてしまったのだ。


「あのバカ、どこ行きやがった…」


普段なら妖気なり首無の匂いや気配を辿ればいいだけなのに、それができない。
どこを見ても人、人、人。
いろんな音、騒々しい声、多すぎる人の熱、空調の生暖かい風、人工物の匂い。
ずっと森で暮らしてきたイタクには、それは初めてのものばかり。


「首無……、」


慣れない服装に頼りの得物もなく、不安が募っていく。
どうしたらいいか分からなくてただきょろきょろとよく知る姿を探した。
多すぎる刺激に頭がくらくらする。


「首無、首無…?」


彼の名前を口の中で繰り返しながら、ふらふらとイタクは流されるままに歩く。
人とぶつかる度にびくりと身体が震えた。


「首無……く、っ!!」


いきなり後ろから肩を掴まれ、バッと振り返れば探していた彼の姿。


「…!」
「イタク、どこに行ってたの…探したよ」
「首無……買い物は…?」
「あぁ、必要なものは全部揃ったけど…イタク、顔色悪いよ、大丈夫?」


自分とは正反対の涼しげな顔に、安心と苛立ちが同時に沸き起こる。
笑うでもなく怒るでもなくイタクは呆然と首無を見つめていた。


「どうしよう、どこかで休もうか?」
「……外に出てぇ…」
「…分かった、行こう」


出した声の小ささに、イタクは自分自身驚いていた。
首無が一度心配そうにくしゃりと黒髪を撫でて、それから出口の方を向いた。


「…っイタク」


ぎゅう、と俯いたイタクの方から強く手を握ってくる。
滅多にない行為に嬉しさと不安を噛み締めつつ、はぐれてしまわぬようにと首無も握る手に力を込めた。









「落ち着いた?」
「ん……」


人気のない公園まで行きベンチに座ってから、やっとイタクは大きく息を吐いた。
さわさわと木の枝が揺れる音が心地よい。


「ごめんね、イタクがこんなに人ごみ苦手だとは…」
「……悪い」
「…顔色、だいぶよくなってきたね」


そっと頬を撫でると、無意識のうちにか手に擦り寄ってくる。


「イタク、何か買ってこようか。飲み物とか…」
「いらねぇ」
「…あ、」


そういえば、あれからずっと手を繋いだままだった。
イタクがちっともその手を離そうとしないことが嬉しくて、思わず頬が緩む。


「もう少し、こうしていようか?」
「……ん」



彼が元気になったら何か甘いものでも買いにいこう。
できるなら、手を繋いだままがいい。





***

もい様へリクエスト。
お題は「首イタで都会デート」。

イタクは人ごみに弱そうですあとすぐに迷子になりそうです。子供か!でもそれがいい。
あとイタクの現代服はパーカーがいいです。バンダナは多分外さない。

2012.3.4
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