(劇ケロ3の後)





「痛くない?大丈夫?」
「大丈夫ですよ」


偽ケロロとの戦いの後、流れるように日向家リビングに集合していた。
何しろ徹夜で盛大に大暴れしているので、怪我の手当てをしなくてはならないのだが、疲れと眠気で動くのが億劫になってしまって。
クルルとモアは世界中のおかしくなったシステムの復旧に忙しい。
なので、自然と手当てに回ったのは、今回は裏方にいたサブローであった。


「よし、小雪ちゃんの消毒終わり」
「ありがとうございます」


眠そうな声で礼を言って、猫のように体を丸めて、隣のドロロにもたれかかる。
微笑ましい姿に、サブローも、当のドロロも笑みを零してしまった。
冬樹も夏美も、もう夢の中。
桃華はタママと一緒に、西澤家の人の所へ帰ってしまった。


「サブロー殿も休むでござるよ」
「俺は平気だよ。今回あんまり働いてないからね」


さぁ次はギロロだよー、と、救急箱を手に近づいていく。
しぶしぶといった様子で手当てを受けるギロロと、そんなに嫌がらなくても、と苦笑するサブローと。
クルルはちらりと横目で見た。


「……」


それでも、何も言わずにパソコンをたたき続けた。







「はい、全員おしまい」


全員分の手当てを終わらせたサブローは、一度大きく伸びをした。
クルルに抜けていいと言われたモアが、最後の手当てを受けて、ソファにもたれかかって寝息を立て始める。


「もう夕方かぁ」


もう少ししたら、何人かは目を覚ますだろうか。
晩ご飯作ろうかな。人の家のキッチンだけど、勝手に使っていいかな。夏美ちゃんだったらいいって言うよね。多分。
なんて考えつつ、キッチンへ向かおうと立ち上がった瞬間、服の端をぐいと掴まれた。


「…何、クルル」


たった今まで、黙ったまま作業を続けていたクルルである。
手当ての最中も、沈黙を守ったままだった彼が、久しぶりに顔を上げて口を開いた。


「どこ行くんだ?」
「ごはん作ろうかと思ったんだけど…あ、クルルも怪我してた?」
「そうじゃねェよ」
「ん?」


まるで行くなというようにくいくいと引っ張ってくるので、サブローは素直にしゃがもうとした。
服から離れたクルルの手が、サブローの腕を掴んで、グッと引く。


「わ、」


ぼすんと勢いよくクルルにもたれかかって、少し間抜けな声が出た。
問いかけるような眼差しに、クルルは大きくため息をついた。


「…休んでなァ」
「でも」
「いいから」


疲れていないはずがなくて。
誰にも見えない場所で、1人で頑張ったことを、クルルはよーく知っているから。


「ほれ」


ぽんぽんと髪を撫でる。
それだけで、ぴんと張り詰めていた何かが、ゆるりと解れていくのが分かった。
こんなところでまで、自分を蔑ろにしなくてもいいのに。
そんな、あえて言葉にしない本音を、髪を撫でる手に込める。


「……」


ようやく聞こえ始めた寝息に、クルルはやっと肩の力を抜いた。







***

元「人と自分と」

魔幻龍様へ相互記念。
リクエストは『他人には細かい気遣いができるサブローと、逆に自分には無頓着なサブローを思う小隊』

小隊感なくて申し訳ないです。
サブローくんが休むまでは、クルルも落ち着いて休んでいられないわけです。

2010,8,10
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