(擬人化)
人に触れるということが、昔からどうにも苦手だった。
触れた場所からじわりとこちらに伝わってくる、あの温度が嫌だったのだ。
クルルの、平熱がぐっと低い手には、人の体温が鮮烈に感じられてならないから。
(気持ち悪い)
関係者と形だけの握手をするときも、書類を受け取る際に触れ合う指先も。
言葉には出さず、ただ眉間に皺を寄せて、そっけなく身をひいた。
親しいと呼べる間柄になった小隊の仲間に対しても、同様で。
むしろ、ひやりとした物言わぬ機械に触れるときの方が、落ち着くのである。
そんな彼の感覚を狂わせたのは、地球で出会った1人の少年。
宙に投げ出された己を受け止めた、あの腕の感覚。
何故だか、嫌だとは思わなかったのだ。
平熱の低いクルルとは対照的に、サブローは少し高めである。
子供体温だとからかうと、むすりと拗ねてしまうのは内緒。
彼に触れると、その場所から染み込むように、彼の温度がこちらに灯る心地がして、悪くない、なんて思うのだ。
今もそう。
「どうしたの」
いつもの背中合わせでは足りなくて、正面から思い切り抱きすくめる。
驚きこそすれど、嫌がる素振りを見せることなく、サブローは首をかしげた。
回した腕から、服越しに重ねた肌から、くぐもった彼の呼吸から、じんわりと感じるあたたかさ。
あれだけ嫌いだったはずの温もりが、無性に愛しい。
もっと感じていたい、と腕に力を込めた。
「クルルは冷たいよね」
そうなのだ。
他人の熱を感じる度に、自分が冷えきっていると自覚してしまう。
それが、嫌だと思う原因だったのかもしれない。
でも、でも。
目の前の相棒が相手だと、嫌じゃなかった。
「…あったけぇ」
まるで、自分もあたたかになるような、そんな気がした。
***
クルルって人肌嫌いそう。
2014.5.11