「クルル、これ返すよ。実体化ペン。クルル必要だろ?」
「使い古しなんていらねェよ。お前さんが持ってなァ」
「でも」
「そうしてほしいんだ。つべこべ言わず貰っときな」
「…ん。じゃあクルルはこっち」
「ク?」
「ギブ&テイク。貰ってよ」
あれは、どのくらい前なんだろう。
「少佐、少佐」
「ん〜?」
「手続きが完了しました。…何を見ているんですか?」
「何でもねェよ。お前もさっさと休みなァ」
「はい、お疲れ様でした」
相変わらず仕事ばかりの日々。
やっと長く続いた仕事も落ち着いて、久しぶりの休息だ。
世話好きな部下を自室に返して、部屋で1人きりになった。
地球を離れて、どれくらい経っただろう。
サブローを失っても、相変わらず時間は過ぎていった。
気がつけば曹長から少佐に階級が上がっていて。
かつての小隊のメンバーとも何かと縁が続いている。
ただ、あいつがいない世界。
「あー…」
簡易ベッドにひっくり返っても、まったく眠たくならない。
頭の中を、くるくるとあの頃の記憶が巡っていた。
「……」
むっくり起き上がって、近くの棚の引き出しを漁った。
目当てのそれを握りしめ、またベッドに思いっきり倒れこんだ。
「……サブロー」
あの日。
サブローがくれた、白い帽子だった。
「…お前、バカだろ」
サブローは言った。
いつかは俺のことを忘れるんだろうね、と。
寂しそうに微笑んで、言ったんだ。
しかし、その考えは思いっきり外れた。
今でもお前を忘れられない。
いや、
(今でもお前を想ってる。)
バカみたいだと思う。滑稽だと分かっている。
あまりにも時間が経ちすぎた。
彼はもう、生きてはいないだろう。
地球人の寿命はあまりにも短すぎる。
お前の最期は誰が看取ったんだろうな。
誰かと結婚でもしたのか。
もしかしたら子供や孫に囲まれていたのかもしれない。
1人ぼっちじゃなければいいのだけれど。
どうして俺はそこにいてやれないんだろう。
「…会いてェ」
どれだけ時間が経っても、相棒の記憶は消えてはくれない。
あれから随分性格が丸くなったと言われた。
いろんな人に出会った。
いろんなことがあった。
なのに。
(お前以外を好きにはなれないまま)
ここまで生きてしまった。
「……」
この帽子は、どうしても捨てることなんかできなかった。
帽子を見つめる度に、何度でも彼を思い出す。
色あせることも、薄れることもない。
声も姿も表情も。
(やっぱり、俺は)
「…サブロー」
お前が、好きなんだ。
ずっとずっと。
いつか、俺が死んでしまう時まで。
ずっと。
(好きでいたい)
「サブロー…」
ぱたん、と雫1つ、落ちていった。
***
「ふたりぼっち」の雪様と以前盛り上がった最終回妄想です。
雪様宅に、この別れ話のサブロー君サイドのお話がありますので、良かったら行ってみてください!
お別れするサブローくんに感動ですよ!!
→ふたりぼっち。
雪様、コラボしてくださってありがとうございました!!
2010,9,19