うん、やっぱり不思議な話だなぁ。
古ぼけた本を閉じて、表紙をじっと見つめた。
幼い頃に、よく読んでいた思い出の本だ。
少しおんぼろで、そんなところに長い時間を感じてしまう。
「終わったのかァ?」
「あぁ、うん」
くたくた白衣を揺らしながら、クルルが奥の部屋から歩いてくる。
サブローが本に夢中になってしまったから、拗ねたクルルは奥でパソコンをいじっていたらしい。
「お前の本か」
「うん、小さい頃のね」
「ふーん」
伸ばされたクルルの手に本を渡した。
ぱらぱらと軽くめくって、すぐに返ってくる。
「好きなのかィ?」
「うん、大好き」
もう一度ページを開いた。
不思議な物語も、素朴で優しい絵も、昔から大好きだった。
「なんかさ、小さい頃に読んだ時よりも分かる気がするよ」
「何を?」
「言葉の意味…かな」
本を置いて、クルルの方にもたれかかる。
柔らかな金髪が頬に当たった。
「星空を見上げると…ってね」
「星空が何なんだよ」
「そうだなぁ」
本を読みながら、心に浮かんだこと。
遠い星からやってきて、幻のように消えてしまった王子様。
無意識に、クルルの姿を重ねていた。
「もしクルルがケロン星に帰って、そこから星空を見上げたらさ…たくさんの星が見えるでしょ」
「あァ」
「その星の1つに、俺がいるって想像してみたら、なんだか嬉しくない?」
にっこり、クルルに笑いかけた。
クルルは少し考えてから、からかうような顔と声で返事を返す。
「さァな〜」
「俺は嬉しくなるよ」
「ふーん…」
クルルは、ほんの少し笑った。
「ククッ」
「そっか」
捻くれたその笑い声で、分かったから。
それで良かった。
***
サブローくん、「星の王子様」好きそう。
という直感でできた話。
10,10,22