「……?」
気がついたら、ゆっくりと髪を撫でる感触。どうやら眠っていたようだ。
自分にそうする相手は1人しかいないから、相手が誰かなど分かりきっている。
「サブロー…?」
「あ、目が覚めたかい?」
「ク、」
覗き込んでくるその顔を見て思考が止まった。
自分の知っている彼はこんなに髪は長かっただろうか、彼はこんな服を着ていただろうか。
「おはよう、クルル」
「……参之丞」
それは、ここにいるはずのない相棒の姿であった。
*
「クルル、やっぱり疲れてるんじゃない?」
「……幻覚見ちまうほど疲れてはいねェと思ってたんだがなァ…」
ゆったりした赤色の着流しに、1つに結ばれた灰色の長い髪。
よく似ているけれど、彼はサブローではなく参之丞なのだ。
しかし、
「参之丞殿、サイコロ、もう1回勝負であります!」
「軍曹、もう10敗してるもんね」
「あ、あの、お茶どうですかっ!?」
「ありがと、夏美ちゃん」
「……」
明らかに浮いた姿である参之丞はなぜか日向家にすっかり馴染んでいる。
ケロロとサイコロを転がして、真っ赤になっている夏美と言葉を交わして。
まるで彼がサブローだというように、当たり前の光景みたいで。
「…参之丞」
「何?」
「ちゃんとしとけ…」
着崩れている着流しの合わせ目を整えると、参之丞はクスクスと笑った。
「目のやり場に困るって?」
「分かってんならすんな」
「俺もよくクルルにそうしてあげたよね…」
「……」
笑う瞳のどこかに寂しげな影が見えたような気がして、クルルの手が止まる。
次の瞬間には参之丞はいつものように綺麗に笑っていた。
「クルル?」
「…来い」
いきなり立ち上がって、参之丞の手を引いてクルルは庭に出た。
リビングにいるケロロたちに見えないところまで進んで足を止める。
参之丞が何も言わずにじっとこちらを見ていた。
「どうしてお前がいる?…サブローはどこだィ?」
「……ごめんなさい」
いたずらをした子供のような顔で参之丞が笑った。
吹いた風で長い髪がふわりと揺れる。
「ただ、どうしても…君に会いたかったんだ」
一歩ずつ、さくりさくりと草を踏んで参之丞が歩み寄る。
伸ばした両手でクルルの頬を包んで、また笑った。
「好きだよ、クルル」
囁く声、同時に唇に柔らかな感触。
すぐそばで参之丞が寂しそうに笑っていた。
「…ごめんね……」
*
「……ク、」
「あ、起きた」
髪をゆっくりと撫でる手の感触。
顔を上げると、制服を着たいつものサブローが顔を覗きこんでいた。
夢を見ていたのだろうか、どうやら眠っていたらしい。
「よっぽど疲れてたんだね。コーヒーいる?」
「サブロー…?」
「そうだよ。当たり前だろ」
まだ寝ぼけてる、とサブローはクスリと笑う。
笑った顔は、やはり参之丞と似ていた。
「コーヒーいれてくるね」
「あぁ…」
にこりと笑って、サブローはキッチンの方へ歩いていく。
その背中が見えなくなってから、クルルはごろりと天井を見上げた。
「……なんで謝るんだよ」
会いたかったのは寂しがり屋な彼か、それとも自分か。
夢で見た彼の最後の笑顔が、心の中でずっとちらついていた。
***
赤月聖さまからのリクエスト。
お題は「参之丞の服着たサブローくん」
リクエストと内容違いすぎてごめんなさい確実に雰囲気違ってます申し訳ないですうえええええ
参→クルサブってすごく切ない片思いだと思うのでも私は参ちゃん大好きです愛してます。
2012.4.17