誰かにつけられている、とサブローはすぐに気づいた。
「……」
数日前から視線と気配をずっと感じていた。
今までは特に害はなかったので無視していたけれど、今日は何となく気配が違う。
まずい、と警戒心が沸いた。
「……」
このことは誰にも話していない。
クルルにすら伝えていない。
バレてしまったら叱られてしまうのだろうが、こういうことをどう伝えたらいいのか分からなくて言えなかった。
その性格故か、助けを求めるのが苦手なのだ。
「……」
謎の誰かを引き寄せるように角を曲がって誰もいない暗い路地に入る。
行き交う人がいなくなったせいで、後をついてくる足音が鮮明に聞こえてきた。
カツカツ、とだんだん迫ってくる。
サブローはそっとポケットに手を突っ込んだ。
「……ッ」
自分の身は自分で守る。
戦う術は持っているのだから。
サブローは目を閉じ、足を止めた。
「……」
カツン、とすぐ後ろで響く足音。
目を開ける、と同時にサブローは振り返って手にしていた紙を相手に叩きつけようとした。
「!」
バチッと火花が弾けてサブローの手から紙が吹っ飛ぶ。
それはサブローの意図とは全く違っていた。
「…あれ、宇宙人?」
相手はただの人間だと思っていたがそうではなかったらしい。
発動しかけた紙を弾いたその腕が、ありえない長さに伸びてサブローに迫った。
「やば…っ」
咄嗟によけるも、背中が冷たい壁に当たって身が竦む。
蒼い目が振り下ろされた腕を捉えて、息を呑んだ。
「何してるんだィ?」
唐突に響いた、緊張感のないよく知る声。
同時に、襲撃者は声もなくその場に崩れ落ちた。
「あ…」
「よォ、サブロー」
その背後にいたのは、いつもの白衣を着たクルルで。
ヘッドフォンから伸びたジャックを手に、ニヤリと笑ってみせた。
強烈な電気が流れるのであろうそのジャックが、バチバチと物騒な音を立てるのを見て、サブローは苦笑する。
「クルル…なんでここに?」
「まさか気づいてないとでも思ったのかィ?」
「知ってたなら、言ってくれたら良かったのに」
「それはお前だろ」
緊張を解いたサブローの髪をくしゃりと撫でて、クルルはニヤリと笑う。
「お前の考えることは分かってんだぜェ?」
「いつも、自分は非戦闘員だってぼやいてるよね」
「時と場合によるもんさ」
素直に助けてって言いなァ、とクルルはからかうように耳元で囁いた。
***
輝様へリクエスト。
お題は「ストーカーにあうサブローと助けにいくクルル」。
サブローくんは自分から助けてなんて言えない子ですから。
そしてクルルが自主的に助けにいくのはサブローくんだけですから。これぞ電波の愛。
2012.3.4