すよすよと眠る顔をぼんやりと眺める。
普段の大人びた顔を知っているから、年相応な寝顔を見ると随分幼く見えた。
そのくせ、少し疲れたような影が浮かんでいるのが、嫌でもクルルの目についてしまう。
「ガキのくせになァ」
丑三つ時すら越した深夜。
仕事を終えたが目が冴えて眠れない、となると、クルルの足は自然と相棒の家へと向かう。
起きているとは思っていなかったけれど、たまにソファや床に倒れるように眠っているところを発見したことがあった。
心臓に悪いのでやめてほしい…というのは、口には出さないクルルの本音。
せめて代弁するように、起こさぬ程度に頬をぐりぐりとつついた。
「……」
ベッドの傍らに腰掛けて、寝顔を覗き込む。
頬をつつく指先が次第に優しくなり、最後には柔らかく撫でた。
「……」
愛しい、と思う。
それは相棒に対する親愛の情を超えていて、恋しいと思える気持ち。
触れたいと思うし、強く欲しいと思う。
親友ではなく、恋人として。
欲しい。なんて。
指先が止まった。
「……」
ただ手に入れるのは簡単なんだ。
力で押さえ込んで、組み敷いて、無理やりに抱いてしまえばいい。
そんなこと、今すぐだってできるんだ。
なのに、できない。
きっと、サブローじゃなかったなら、そうしていただろうに。
簡単にできてしまっていたはずなのに。
たった1人の親友で、相棒だから。
世界で1番、大切にしたい人だから。
傷つけたくないし、泣かせたくない。
少しはいじめてやりたいようで、本気で嫌がることはしたくない。
手は伸ばすのに、掴むことが怖かった。
「…らしくねェな」
自分は、こんなに臆病じゃなかったはず。
けれど、無防備な頬を撫でる指先は、そこから先へと伸ばすことはできなかった。
***
くっつく前。
大事であればあるほどに、手を伸ばすのが怖くなる。
2014.7.13