(土蜘蛛戦の後)
鬼纏の後は疲れるっていうのは本当なんだな、と自分の状態を確認しながらイタクは思った。
目立つ怪我はないが、疲労がきつい。
力がうまく入らない。
「イタク、大丈夫か?」
「…誰の心配してんだ」
すでに立ち上がっているリクオを見て、舌打ちを1つ。
自分ばかりが消耗しているようで、なんだか悔しかった。
「ほら、あいつらが呼んでんぞ」
「ん?」
離れた所に、リクオを呼ぶ奴良組の仲間がいる。
リクオをそれを見て、それからまた振り返った。
「イタクも一緒に行くぞ」
「俺は後から行くから、先に行っとけ」
「淡島たちも待ってるぜ?」
「後でちゃんと行くって」
「立てないのか?」
「…違ぇよ。ほら皆お前のこと待ってんだろ」
「立てないんだろ?」
「……ほっとけ。ほら、さっさと行けよ」
「イタク、立てないなら正直に言えって」
「………うるせぇ」
差し出された手になんだか憎い。
リクオが少し笑っているのが、気に入らない。
「……」
「ほら、イタク」
「……いい」
「ん?」
「いらねぇって」
本当は、足に全然力が入らないから、手を引かれても多分立てない。
リクオの目の前でそのままぶっ倒れるなんて、絶対に嫌だ。
イタクも意地である。
「イタク…」
「しつこい。さっさと行けよ」
「……じゃあ、こうする」
リクオは少し考えて、それからイタクに背を向けてしゃがみこんだ。
「…何のつもりだ、リクオ」
「背負ってやるよ」
「いらん」
「イタクもしつけぇな…」
リクオのため息に、思わずイタクもむっとしてしまう。
「てめ、誰のせいでこうなったと…」
「だから、俺が背負ってやるっつってんだろうが」
「……」
「背負うのが嫌なら抱いてやってもいいぞ」
「は、背負われる方がましだっての!」
リクオの大真面目な返答にイタクの方が動揺してしまう。
こういうところが本当に読めないやつだ。
「だったら早くしろよ」
「……」
我慢だ、今回だけは我慢だ、と自分に言い聞かせながら、イタクはそろりとリクオに手を伸ばす。
イタクを背負ってリクオが立ち上がるまでにかなり時間がかかったのは秘密だ。
「……」
「…イタク、そこまでへこまれたら俺も傷つくんだが」
「黙って歩け」
「分ーったよ…」
大きい背中だな、とイタクはふと思った。
遠野で何度も鎌を向けたこの背中が、こんなに大きいとは思わなかった。
この背中がたくさんの仲間を背負っている。
きっと、イタクのことも。
「…イタク、ありがとうな」
「ん?」
「嬉しかったぜ?お前ェに認めてもらえてよ」
「……ふん」
嬉しかった。
リクオが自分を背負えるほどに強くなったことが。
やっとリクオを認めることができたことが。
絶対に、口に出してはやらないけど。
「…バァカ」
口に出さない代わりに、イタクは少しだけ、リクオの肩に顔を埋めた。
***
素直にならないイタクがかわいい。
2012,1,21