「イタクが好きなんだ」






「……」


イタクはずんずんと奴良家の広く長い廊下を歩き回っていた。
意味があるわけでなく、ただ落ち着かない自分の心のまま、無意識にそうしていた。
いつもと同じ仏頂面、だけど心はぐるぐると巡っている。


「……」


恥ずかしいやつめ、と思う。
首無の笑顔と言葉を思い出して、またため息をついた。
あんなことをさらりと言ってしまうなんて、さすが二枚目は違う。
それに対してイタクは、「…バァカ」と一言返して部屋を出て行ってしまった。


「……」


好きと言われたことはある。遠野で、淡島たちに。
それは一族として、家族としての好きだった。それは分かってる。
でもこうして、こんな形で言われたことなんてなかった。
どう反応したらいいか分からなかったんだ。


「……」


イタクの思考は続く。
別に、首無が嫌いなんじゃない。
嫌いじゃない、ということは、好き、ということだろうか。
仲間やリクオたちに対する思いとは違うのだろうか。
あぁ、でも。


「……」


嬉しかった。
彼の真っ直ぐな目も、想いの篭った言葉も声も。
それが、己に向けられたという事実も。
すごく嬉しかったんだ。
でも、ああして部屋を出てしまったのは、どうしようもなかったから。
どう返事をしたらいいのか分からなかった。
あのままあそこにいたら、きっと固まったままになっていただろう。


「……」
「やっと見つけた!イタク!」
「うおっ」


遠くから名前を呼ぶ声と、ドタドタとうるさい足音。
振り返ると、今ままで思考していた相手がすぐそばにいて、


「イタク!」
「……!?」


首無の顔を見る前に、きつく抱きしめられていた。
勢いがついて、苦しい。
倒れてしまわぬよう、ぐっと体に力を込めた。


「ごめん、イタク…怒ってしまったかい?」
「は…?」


少しだけ落ち込んだ風のある首無の声に、イタクは少しだけ、揺れた。


「……」
「ごめん…」
「…首無」

心がきゅうと苦しくなる感覚。
あぁ、やっぱりそうなのかと、己の気持ちがすとんと定まった。
だから、イタクは少し背伸びをして、首無の耳元へ、本当に小さな声で、呟いた。


「首無、………好き、だ」


届いただろうか、とちらりと横目で窺うと、首無はぴたりと動きを止めていた。
こいつ息してんのか、なんてことを考えてしまうくらいに。


「おい、首無?」
「い、い、イタクぅぅ!!」
「ぐぇ」


どこにこんな力があるんだってくらいの力が篭もった。


「ありがとうイタク、私も大好きだ…!」
「苦しいって…」


ちゃんと届いたいことが嬉しい。
首無がどうやら大喜びしてるらしいことも。
少し苦しいのも、心臓が痛いくらいに動いているのも、気にならないくらい。
だから、もう少しこのままでいいかもしれない、なんて。


「ねぇイタク、…もう1回言って?」
「やだ」



***
首→→→←イタ くらいのが好き。

2012.1.19
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