その日は朝から強い雨が続いていた。
特に与えられる仕事もなく、雨では修行もできず、珍しい休日だ。
そんな訳で、ゆらは学校の宿題を、竜二は資料室(ゆらの部屋)から取り出した書物を捲っていた。
魔魅流は何をするでもなく、部屋の隅に座ったまま、ぼんやりとそれらを眺めている。
こくりこくりと頭を揺らしているのは、眠たいからだろうか。
「雷、近づいてきたなぁ」
ふと顔を上げて、ゆらが呟く。
ゴロゴロゴロ、と遠い雷鳴が部屋にいても聞こえていた。
「どうする?近くに落ちたら。停電するんちゃうん?」
「知るか。いいから手を動かせ」
「雷、気になるやん」
全く気にしていない様子の魔魅流が欠伸を1つ。
それからまた沈黙が続く。
だんだんと、雷の音は大きくなり、数も増えていった。
「……」
ふと、魔魅流が顔を上げる。
同時に、ガリガリ、ドンと大きな雷の音が響いた。
「わ!」
「…今のは近かったかもな」
さすがに竜二も顔を上げる。
ゆらは完全に宿題そっちのけで、外を覗っていた。
「どうする兄ちゃん、ほんまに雷近づいてきたで」
「そうだな」
「それだけ?もっとなんかないん?」
「別に害はないだろうが」
言った途端にまた、ドン、と大きな音がした。
「わぁぁ!またや!」
ゆらは1人で騒いでいたが、竜二はちらりと隅にいる魔魅流の方を見た。
「どうした、魔魅流」
雷が落ちる度に、パチ、と聞き覚えのある音がしていた。
魔魅流の髪や腕の辺りで、小さな火花が弾けているように見える。
「…?」
言われた本人の魔魅流も、よく分かっていないのか首をかしげた。
また雷の音がして、パチパチと魔魅流の身体からも電流が微かに走る。
「魔魅流くん、どうしたん?」
「まさか、雷はお前が原因か」
「違う」
魔魅流はそっと胸を押さえた。
眠たげな瞳が、いつも以上にぼんやりしている。
「ミャーコが、反応してるだけ」
「…雷獣か」
ミャーコと呼ばれる彼の式神は、魔魅流の奥深くで彼自身と溶け合っている。
故に、式神のことも魔魅流は分かるのだ。
「落ち着かないみたい」
また、雷が落ちる音がして、魔魅流の髪が火花で少し揺れた。
しかし当の魔魅流は我関せずという風に、まだうつらうつらと船をこいでいる。
内にいる式神が落ち着かないというのに、それを有した魔魅流は呑気すぎるのではないか。
「わぁっ!」
「…ゆら、いちいち雷にびびってどうするんだ」
「ちゃうねん。魔魅流くんがバチバチいってるのが気になるねん」
音がする度にびっくりするゆらに、竜二はため息をついた。
これが破軍使いと名高い人材なのだから、なんだか奇妙なものだ。
魔魅流の眠そうな目がゆらに向いた。
「ゆら、雷は嫌いか…?」
「嫌いなんとちゃうねん!びっくりするだけやもん」
「良かった」
魔魅流がなんとなく安心したように目を閉じる。
途端に窓から光が差し込み、今までで最も大きな音が響いた。
ドン!
「またやー!」
「っ!」
「魔魅流!」
雷に騒ぐゆら。
同時に落雷に反応した魔魅流の身体から、こちらも強い電流が迸った。
竜二が反応しても、もう遅い。
次の瞬間には、屋敷の明かりは全て落ちていた。
「ほ、ほんまに停電したでーっ!」
「馬鹿、魔魅流!お前まで放電するな!」
「ボクじゃない。ミャーコがやった……」
「なぁ、この雷お前が原因じゃないのか?」
「……ん」
「おい!」
とうとうこてんと魔魅流の頭が落ちる。
その後、眠った魔魅流と空の雷がバチバチとうるさかったのには…竜二は目を瞑ることにした。
***
雷にもひるまぬマイペース魔魅流くん。
2013.5.4