「イタクはあったかいなぁ」
「…キュウ」
風の冷たい夕暮れに、2人で縁側に座っていた。
2人ではあるけれど、人影は1つだけ。
小さな鼬姿のイタクは、首無の隣でゆらりと尾を揺らした。
頭や首をかしかしと撫でると、機嫌良さげにキュウと小さく啼く。
「やっぱり獣の妖は体温が高いんだな」
「キュー」
「……あ、もうすぐ日が落ちるね。イタク」
遠くの空で、日の光が山の後ろに隠れそうになっていた。
日が沈めば、小さな鼬姿のイタクは人へと姿を変える。
「?」
消えかけた日の光を見つつ、首無はそっとイタクを抱き上げ、膝の上に置いた。
意図が分からず、イタクは不思議そうに首無を見上げた。首無はにこりと笑うだけ。
最後の光が消えてしまうと、ふわりと一瞬大きく風が吹く。
風に目を閉じ、もう一度開くと、凛とした黒い瞳が目の前にあった。
「…何がしたいんだ」
「こうしたかったんだよ」
小さな鼬から少年へと変化したイタクが、不服そうに首無を睨みつける。
首無はどこ吹く風といった様子で、膝の上に座るイタクを嬉しげにぎゅう、と抱きしめた。
「あー、あったかい」
「…ちょっと、きつい」
「まぁまぁ」
宥めるように背中を撫でると、イタクはため息をついて力を抜いてもたれかかってきた。
肩に額をこすりつけるような仕草が可愛くて、くすりと笑ってしまう。
「変化の時に膝に乗せるの、やめろ」
「なんで?」
「…こうなるから」
「いいじゃないか」
拗ねたように顔を背ける。
けれど、イタクの手が控えめに首無の青い着物を握りしめたのに気がついた。
滅多にない甘えるような態度に舞い上がりそうになるのは秘密だ。
「誰か来たら蹴り飛ばすぞ」
「…見られても良くない?」
「よくねぇ」
口ではこう言いつつも、こんなに密着した体勢でいるのを許してくれていることが、首無にとっては嬉しかった。
「…あ」
ぴくりとイタクが顔を上げる。
小さく息を吐いて、体に力を入れて首無から身を離し立ち上がる。
「イタク」
「誰か来たから」
短すぎる2人の時間はここまでらしい。
さっさとどこかへ行こうとするイタクが、ふと足を止めて振り返った。
「…後で」
ぽつりと一言。
一瞬だけあった眼差しは、普段よりもどこか柔らかい。
返事を待たず、イタクはそのまま去っていった。
「後で、かぁ」
後でどうしてくれるのだろう。
その先を考えるのがなんだか楽しくて、首無は1人で頬を緩ませていた。
そんな情けない顔を、通りすがりの小妖怪たちに見られていることには気づいていない。
「ふふ」
***
どうしてくれるんですかね。
初書き首イタでした。そして改めて首イタを模索したい。
2012.1.19