夜明けの街は静かなものだが、その中央にある城の中で音が響いている。
まだ霧に包まれた街を見下ろすようにしながら、参之丞が三味線を弾いていた。

「……」

ゆったりした寝巻きに緋色の羽織を肩にかけ、下ろしたままの長い髪を緩く吹く風に遊ばせる。
眠れなかったわけではない。
少し前に目を覚まして、それからまた眠る気分ではなかっただけ。
目を閉じたまま、でも指は止まることなく音を奏で続けていた。
聞こえるのは音楽と風の音。
そこに新しい音が混ざったことに気づいて、参之丞は目を開けた。
足音。

「ククッ、早起きじゃねェか」
「そう言う君こそ」

廊下をゆっくり歩いてくるのは、城に遊びにきた一行の、藪医者。
参之丞はやっぱり手を止めずに微笑んだ。

「上手いもんだなァ、それ」
「これかい?」

最後に少しだけ強く音を出して、手を止める。

「前に、集会所で教えてもらったんだ。それからは子供達に弾いてあげてたんだけど」

参之丞の指がそっと弦をなぞった。
俯くと、ばさりと灰色の髪が滑るように落ちる。

「一曲、聴いてかない?クルル」
「ん、聞いてやってもいいぜェ?」
「ありがと」

傍らにクルルが座りこむ。
参之丞はまた目を閉じて、手を動かした。
ゆっくりな音色は、夜明けの街に溶けていく。

「……ククッ、悪くねェな」
「ほんと?」
「あァ。けどな、」
「?」

クルルが座り込んだままで参之丞に手を伸ばし、揺れる髪に触れた。

「あんまし下ろしたままにすんなよォ?」
「…了解♪」

皆が起きてきたらちゃんと結ぶから、と参之丞は笑った。
くすくすと肩が揺れると、つられるように髪も動く。

「参之丞、もう1回」
「しょうがないなぁ」

今度は、少し明るめの音が流れる。
先ほどよりも、空が明るくなっていた。




***
髪を下ろした参之丞くんの色気はやばいそうです藪医が言ってた。

2012.1.19
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