灰色の髪が、ずいぶんと柔らかい。
そっと髪を撫でてそんなことを思った。

「クルル」

その声は単調で、恐れも戸惑いもなく、名前を呼ぶ。
クルルに組み敷かれた状態で、サブローはそっと彼を見返した。
少し釣り目の蒼は、クルルのお気に入りだ。

「今だけ、なんだろうな」
「…短いよ。今っていう時間はさ」

生まれた星も生い立ちも違う2人は、いつかは離れてしまう。
記憶も想いも、全てを消し去って。
それは遠くない未来のこと。
残されているのは、今という曖昧な時間だけ。
縋りつくには、あまりにも不確かだ。

「…サブローで良かった」

髪を梳いていた手が、そっと柔らかな頬に触れた。
あたたかい。己の手の冷たさが際立つくらいに。

「ここにいるのが、お前で」

心を許せたのは、愛せたのは、きっと世界でこの小さな相棒ただ1人。
今までも、これからも。

「やっぱ、お前が好きだ」

サブローがゆるりと両手を上げ、クルルの両頬を包み込んだ。
少し哀しそうに、でも綺麗に笑ってみせた。

「クルル、笑って」

言われて初めて、自分がひどい顔をしていたことに気がつく。
そっと唇を重ねれば、よく知った感触に少し安心した。



***
幸せになってほしいです

2012.1.28
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