顔つき、眼差し、体格から髪の毛まで。
突然現れた少年は、己がよく知る相棒の面影が重なってみえた。
けれど、その内側は全てが丸ごとひっくり返っているようで。

「僕には才能があらへんから」

地球人にして、クルル自身が認めるほどの天才。
画力は申し分なく、学力から身体能力までずば抜けている存在。
退屈を嫌い、トラブルを面白がる、人懐っこい彼。

それがどうだ。
絵が下手だと、自信がないと嘆いて落ち込んでいる姿は、とてもサブローとそっくりとは思えないではないか。

「何へこんでんだィ?」
「だって…」

少しばかりぐずりながら、今にも涙が落っこちそうな瞳で見上げてくる。
サブローがこんなにもストレートに落ち込む姿など、クルルは滅多に見たことがない。
いや、そんな姿を少しくらいは見たいような気もするけれど、目の前の六二三の姿は想像とは違った。

(サブローのそっくりさん、ねェ)

普通なら、クルルはこんな性格の者など相手にしない。
そう、本当ならとことん嫌味をぶつけて、相手の心をへし折るくらいのことをやってのけるはずなのだ。
なのに、何故だか、口からは嫌味が飛び出してこない。
不思議と苛つきもしない。
妙に胸の内が穏やかなように感じるのは、脳裏に揺れる相棒の面影のせいだろうか。

(甘いなァ、俺も)

「絵、好きなんだろ?」
「…好きだよ」
「だったら描け。上手い下手じゃなくて、描くのが楽しいから描くんだろォが」


――楽しいよ、絵を描くの

いつだったか、そう言って笑った彼の顔を思い出して。
目の前の灰色の髪を、手のひらでぐしゃりとかき回した。

「わ、何するんだよ…!」
「ククッ、ほれ」

ずいと差し出したのはスケッチブック。
眉を下げた六二三の瞳が、ぴたりとそれに向いた。

「なんか描いてみな。下手でいいからよォ」
「…えっと」

そろそろとスケッチブックを受け取る。
しばし薄汚れた表紙をじっと見つめて、それから視線を少し上げた。

「じゃあ、クルルを…描いても、いい?」
「好きにしなァ。クックー!」
「うん!」

大きく息を吸い込んで、ごしごしと溜めていた涙を拭う。
目と目を合わせて、六二三はふわりと笑った。

「ありがとう!」

その笑った顔は、地球の彼と瓜二つ。
クルルは無意識のうちに、柔らかく目を細めていた。



***
似てないような、似ているような。

2013.8.28
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