目を覚ましたとき、体がうまく動かせなくて、少しばかり驚いた。
状況が飲めずにぼんやりした後、全身を包む温かさと背まで回った腕に、あぁと合点がいく。


(あらら)


隣で眠るクルルの腕の中に、すっぽり収まっているらしい。
さながら、抱き枕か何かのように。


(いつのまに)


昨日の夜、どうしてたんだっけ、と記憶をたどる。
まだやることがあるとパソコンを叩くクルルを置いて、1人で先に眠った、はず。
その後入り込んできたのだろうか。少しも気が付かなかった。


(よく眠ってる)


普段と全然違う、穏やかな寝顔と、静かな呼吸の音。
そのくせ、動くに動けないほどしっかり力のこもった両腕に、サブローは起きるのを諦めた。
彼を起こさずに脱出するのは無理そうだ。


(クルルの寝顔って、あんまり見たことないんだよね)


人の気配ですぐに目を覚ます彼だから。
ここぞとばかりに寝顔を覗き込む。
相変わらず、地球人の姿をとった彼は、とても美しいと思った。
薄闇でもきらりと零れる、金色の髪。不健康なくらいの白い肌。どこか中性的な、でも涼しげな容貌。
これが作られたものだから、不思議だ。


(きれい)


触れたい、と思った、瞬間。


「わ、」


ぐぐ、と両腕に力が込められて、思わず声が出る。
起こしてしまったか、と思ったけれど、違うらしい。


「……、」
「…クルル?」


掠れた、聞こえるか聞こえないかの小さな声で。
名前を呼ばれた。


「どうしたの」


返事はない、けれど。


「何の夢、見てるの」


回された腕、その指先が背中に緩く食い込むほどに、力が加わっていて。
小さく身じろぎする。
零れるような声で、サブロー、とまた名前を呼ばれた。


「クルル、大丈夫だよ」


ゆっくり、自分もまた腕を回す。
そうしてそっと、彼の背中を撫でた。


「ここにいるよ」


ぽすんとクルルの胸元に顔を埋めると、とくとくと温かい音がする。
何も言わない、触れるだけの背中は、何故だか泣いているみたいで。
あやすように、何度も緩く、触れる。


きっと、起きたらなんでもないようなふりをするから。
明日は2人一緒にいればいい。
今だけ、彼の寂しさに触れたいと思った。




***

たまにはクルルが縋ればいい。

2017.06.21
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