目が覚めると、腹部がぎゅうと締め付けられる感覚があって。
視線を向ければ、後ろから回された両腕があった。


「…どした?」
「……」


返事はないけれど、眠っている訳ではないのは、何となく気配で分かる。
振り向こうかと考えて、やっぱりやめた。


「サブロー、ちょっと苦しい」
「……」
「おい」


苦しいと言ったのに、さらにぐっと締め付けてきた。
何なんだもう。
寝起き故か、向こうも寝ぼけているのか、なんだかうまく相棒の思考が読めない。


「嫌がらせかィ?」
「そうでもないよ」
「誘ってんの?」
「さぁね」


そこはかとなく、ふにゃふにゃした声音。やっぱり寝起きのせいか。


「襲っちまうぜェ?」
「襲っていいよ」
「……」


冗談なのか何なのか。
サブローがいいなら実行してやろうかと思いつつ、服を掴んでいる手を見やった。
小さい手だ。


「嫌な夢でも見たかィ?」
「そうじゃなくて、さ」


ふふ、と小さな笑いが零れたことに、内心ほっとした。
それから、


「起きたら、隣にクルルがいるのが嬉しくて、つい」


んん、といつになく素直な言葉に、息が止まる。
普段、恋人同士の甘い言葉を交わすことをしないものだから、尚更に。



「クルル、すき」



ぶわわ、と上がった熱に、子供かと心底呆れた。
ただ、それでも、滅多にないその言葉が、どうしようもなく嬉しかった、のだと思う。


(情けねェ)


「…あーもう」
「照れちゃった?」
「うるせェ」


くすくす笑う声が、無性にくすぐったい。
彼にばれないように、手で顔を覆うと、なんだか熱かった。


「…お前さん、襲っていいって言ったな?」
「言ったかも」
「本当に襲っていいかィ?」
「んーと…」


こつりと、背中に感触。
ぐりぐりと、額をこすりつけてくる仕草が、目に見えるようで。


「クルルも言ってくれたら、いいよ」
「ク、」


そんなことでいいなら、いくらでも言えてしまいそうだ。
でも、お互いに望んでいるのは、一度だけ。

とっておきの、一度だけで、十分なのだ。



「サブロー」


腕を解いて、ぐるりと反転。
蒼い瞳を見た瞬間、愛しいと思って、少しだけ頬が緩んだ。
引き寄せた耳元に、随分久しぶりな言葉を、たった一度だけ、囁く。



(すき)




***

いちゃいちゃしてるの久しぶりな気がする。
ちなみに、睦実くんはストレートに好き好き言うけど、サブローくんは滅多に言わないイメージ。

滅多に言わないから、特別で大事な言葉にしてるといい。

2016.06.28
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