ただいまぁと緩い声がして、数時間ぶりに顔を上げた。
床に置いていたPCを閉じる間に、ぱたぱたと足音が近づいてくる。
待っていた家主の帰りに、ほんの少し気分が浮き上がったのは内緒だ。
「おかえりィ」
「クルル、久々だね」
もそもそと荷物を置いて、ぼふんっと抱き着いてくる。
随分甘えん坊じゃないかと思った瞬間、ふわりと馴染みのない匂いが鼻を掠めた。
「…酒?」
「あれ、分かっちゃう?」
ラジオ局のスタッフで、小さな打ち上げがあったらしい。
大人ばかりの現場だからそういうこともあるのだろうが、サブローが学生だっと知っているだろうに、と舌打ちをしたくなるのは、ちょっとした親心だろうか。
「大丈夫、ちょっとしか飲んでないから」
「…その割に酔ってねェか?」
「そうかな」
ほんわり色づいたように見える頬を、ぐりぐりと突く。
くすぐったいと、サブローはくすくす笑った。
「向こうにいた時は何ともなかったんだけどね…」
「ク?」
するりと回された腕と間近に迫った瞳に、不覚にもドキリとした。
「なんか、クルルの顔見たら、ほっとしちゃったみたいでさ」
クラクラする。
そう耳元で囁かれたら、どうしようもない。
「…後悔すんなよ」
返事を待たずにキスを1つ。
珍しく彼の方から求められて、止まれそうにないなと自分自身に少し呆れた。
「は、」
「どんだけ飲んだんだィ?」
「コップの、半分くらい、かな」
「…それでこれか」
今は構わないけれど。
自分のいない場でこれだと、少し心配になる。
そう思ってしまうのは、過保護だろうか。
「頼むから、あんまり外で飲むんじゃねェぞ」
「…その方が良さそうだね」
本人も少し反省しているのか、小さくこくりと頷いた。
*
翌朝。
毛布の中でころころと寝転がるサブローに、クルルはぽつりと聞いてみた。
「お前、いくつだった?」
「15だよ」
「……」
「え、何」
「いや…」
悪かった、と言っても遅すぎるかもしれない。
***
流石に反省するクルル。
サブローくん、気を張ってる間には酔わないんだろうけど、緩むと途端にふわふわしてればいい。
2016/1/18