(静戦で、クルルが間に合わなかったら、という話)




深い海によく似た、蒼の瞳。

泣き出しそうな、笑ったような、そんな眼差し。



光の中で、唯一見えたものだった。






「あ…?」



ふと気がつくと、砂の上に立っていた。
ぐるりと見渡して、ここが西澤家の敷地内の砂漠だと分かる。
不思議と直前の記憶がない。
ただ、急いだかのように、息が乱れていた。

(なんでここにいるんだっけか…?)

さくり、と砂を踏む。
何もない空間をふらふらと歩いていると、砂に埋もれた何かを見つけた。

「こいつは…」

持ち上げて砂を払うと、それはオレンジ色のスケッチブック。
表紙を見た瞬間、がくんと全身の力が抜けて、クルルはその場に座り込んだ。


(なんだこれ)


心に空いた、大きな空白。
虚無感。
何か、大切なものが手のひらから零れ落ちた、感覚。

「クルル殿」

ストンと軽い着地音と共に、背後から聞こえるのはドロロの声。
立ち上がれず、後ろも向けず、ただただスケッチブックの表紙を見つめたまま、クルルは声を絞り出した。

「ドロロ、センパイ」

「どうしたのでござるか、こんなところで…」

「…どうした、か」

目の前には、、何もない空間。
それがゾクリと背中を冷やした。

「どうしたんだろうなァ…」

何もない。誰もいない。
なのに、この寒々とした感覚は何なのだろう。
確かに、ここには何か大事なものがあったはずなのに。






(クルル)






どこかから、名前を呼ばれたような気がした。














小隊の皆には、パートナーと呼ぶ地球人がいる。
ケロロには冬樹がいて、ギロロには夏美がいて、タママには桃華がいて、ドロロには小雪がいる。
ならば、自分にもそういう人物がいなくてはならないはずだ。

「……」

日向家にて、いつものメンバーがわいわいと騒いでいるのを、クルルはソファにもたれかかってぼんやりと眺めていた。
空虚だ、と思う。
目の前の風景は、こんなにも楽しそうなのに。
いや、以前はそう思っていなかった気がするのだ。

「……」

あの砂漠の夜から一週間、いろんな可能性を考えた。
自分のパートナーはモアなのだろうか、それとも秋か。
何度考えても違うと感じてしまう。
なぜだか、そうではないと心が決め付けているような。

「……」

思えば、自分の記憶もなんだかおかしい。
地球にきてすぐの頃だとか、小隊と合流した時だとか、これまでの地球での日々だとか。
何かが足りない。誰かがいない。
記憶の中にぽっかりと空いた誰かの影が、どうしても思い出せなくて。

「どうしたでありますか、クルル」

いつの間にか隣にいたケロロの顔を見返した。
普段はぼんくらと称される彼だけれど、時々妙に聡い時がある。

「なぁ隊長、俺のパートナーって誰だと思う?」

「ゲロ?クルルのパートナー…でありますか」

考えるように視線を天井へと向けるケロロ。
でも何も浮かばないのか、うーんと唸るばかりだ。

「…いや、もういい」

「え?ちょっと、クルルー」

ゆるゆると立ち上がって、クルルはリビングを出た。
目の前のあたたかな風景を見ているのが、少しだけ、辛かった。







***

長くなりそうなので、ここまで。
続きます。

2013.9.30
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -