※なんかファンタジー的なよく分からんパロ
 絵描きのサブローくんと科学者なクルルの話
 世界観とかは雰囲気で察してください
 何でも大丈夫な人はどうぞ









気まぐれに、街に出た。



「…久々ァ」


外出するのはさほど好きではないけれど、長い間室内に篭っていると、外に出たくもなる。
薄暗く、窓もない場所なら、尚更に。
あたたかな日の光と緩やかな風に、少しだけ良い気分になった。

用事も行く宛もないし、街に知り合いなどいない。
ただただ気まぐれに、ふらふらと歩くだけ。


「ねぇ君」


不意にかかった声に足を止めた。
周りに人はいない。ということは、呼び止められたのは自分だろうか。


「……ん?」
「そう、君だよ」


見ると、木の下に座っている少年が1人。
呼びかけてきたのは彼らしい。
灰色の髪と帽子。手にしているのは、古ぼけたスケッチブック。
絵描きか何かだろうか、と勝手に推測した。


「何か用かァ?」


少年は人懐っこい笑顔でこちらを見る。
整った顔立ち。
何よりも、深海を思わせる深い蒼の瞳が印象的で。


「君、暇?」
「まァな」
「ちょっとだけ、時間をくれないかな」
「ク?」
「君の絵を描きたいんだけど」


とん、と指で示したスケッチブック。なるほど、本当に絵描きらしい。
仕事も抜けてきた訳だし、用事も何もない。
怪しい風でもないし、まぁいいか、とあっさり承諾した。


「ありがとう」


にこりと柔らかに笑う顔に、自然と足がそちらに進んでいた。
少しは気晴らしになるかもしれない、なんて思いながら。









「…俺を描くんじゃねェの?」
「君も描いてみたいんだけどね、」


ぱらりとスケッチブックを捲って、少年がふふ、と笑う。
木陰に並んで座る2人。
ざわざわと葉の揺れる音が、心地いい。


「君を見て、浮かんだものがあったから」
「ふーん」
「インスピレーション、ってやつ」


何の変哲もない鉛筆を握って、少年が再びこちらを見る。
先ほどと違って、少し鋭いような、真っ直ぐな眼差し。
敵意はなく、目の前のものを見抜くような、集中したそれ。


(芸術家ってやつなのかね)


特に何も言わずに、少年をぼんやりと見つめている。
灰色も髪も、瞳の色も、あまり街では見かけないものだ。
何より、どこか不思議な雰囲気に、興味がわいた。


(ふむ)


「お前さん、絵描きか何かか?」
「そんなものかな」
「絵を描いて、食ってるのかィ」
「まぁね。あぁ大丈夫、君からお金をとったりしないよ」


これは、趣味のようなものだから、と。
少しだけ笑って、それから少し、真剣な顔をした。
描きあぐねるようにゆらゆらと揺れていた鉛筆が、意図を持って走り始める。

ガリガリと描く音。
風の音。葉が揺れる音。

しばらく、それだけ。


「……」


何をするでもなく、ただ見つめていた。
目の前の少年に。形を成していくスケッチブックに。
蒼の瞳に。

不思議と、退屈だとは思わなかった。


「君、は」
「ん?」
「街の人じゃないね」
「…なぜ?」
「なんとなく、だけど」


彼が顔を上げた。
己を見抜くような、大きな蒼。
目と目があった瞬間、呼吸が止まった気がした。


「科学」


ぽつりと零れた単語に、苦笑いを1つ。


「当たりかな」
「やるねェ」
「…初めてだよ。科学者に会うのは」
「だろうな」


この街に、科学者なんていない。
科学なんてものに手を出そうとするのは、数少ない変わり者ばかり。
その変わり者たちは、研究機関であるラボに篭りきりで、街には出ていかない。

故に、得体の知れない科学というものに、良い印象を持つ街の者はあまりいないのだ。


「じゃあ、君はラボの人なんだ」
「まァな」
「そう…」


その時、ほんの少しだけ、少年の目が迷うように揺れた、気がした。
それから、自分の手元へと視線を落とす。


「君は…科学者だとは思うけど、ラボの人って感じがしない」
「まァ、変わり者だとはよく言われるなァ」
「あ、やっぱり」


ふわりと笑う顔。
少年は、ばさりとスケッチブックのページを捲った。


「描けたのかィ?」
「まだ未完成。だけど、君に見せたいものができたんだ」


さらさらと新しいページに鉛筆を走らせる。
それから、悪戯っぽくこちらを見た。



「君にだけ、見せてあげる」


ラフな線で描かれた、蝶の絵。
その絵が、淡く光を放った。


「ク、」


まるで紙面から浮き上がるように、溢れ出す様に。
絵の蝶が、現れた。


「こいつは…」


ゆらゆらと風に舞い、空へと昇っていく、まぎれもなく生きた蝶。


「…科学、か、魔法か何かか?」
「さぁ。俺もよく分からないんだ。だからね、君」


少年はどこか嬉しそうに、立てた人差し指を唇に当てた。
まるで、初めて、秘密を打ち明けたような、そんな顔で。


「秘密だよ」


唇が、艶やかに弧を描いた。





***

何が何だかなパロのようなもの。
続け、ばいいなぁ、とは思ってる。

2015.11.15
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