なんでこっちに来るんだ、と盛大なため息をつきそうになったけれど、辛うじて飲み込んだ。
「だって、だって、ドロロのために作ったのに…」
ラボでしょんぼりと項垂れているのは、小雪だ。
曰く、以前作り方を教えたカレーを、小雪なりに更に研究を重ねたらしい。
和風だしや、忍者秘伝の隠し味を駆使し、独自の味にたどり着いたのだという。
目的はもちろん、ドロロに食べてもらいたいからだ。
「なのにね、ドロロったらひどいんだよ」
食べてはもらった。おいしいと言ってくれた。
なのに、にこりと笑ってドロロは言ったのだ。
「夏美殿も、きっと喜んでくれるでござるよ」
それは、一番望んでいた形とはどこか違っていて。
そのすれ違いが悔しくて、胸がきゅうと苦しくなった。
「ドロロに食べてもらいたくて、作ったのに」
ぐしゃぐしゃになった気持ちのままに、ドロロのばか、と小雪は水車小屋を飛び出してしまったのだという。
そのまま行き着いたのが、カレーの師匠のところだったらしい。
「…はぁ」
勘弁してくれ、と思う。
生憎人を慰めるだの、相談相手になるだの、そういうことは向いていないのだ。
けれど、さっさと出て行けとは流石に言えなかった。
「ドロロ先輩、鈍いからなァ」
「うん…」
「とりあえず、話してみねェと話は進まないと思うぜェ」
「…そうだよね」
ぐっと潤みかけていた目元を拭い、小雪は顔を上げる。
もう、落ち込んではいない。
たくましいもんだ、なんて思いながら、クルルはちらりとラボのモニターを見た。
「行くぜェ」
「え?」
*
「小雪ちゃんがねぇ…」
日向家の屋根の上で、珍しく将棋も指さずにドロロとサブローが座っている。
トラウマとはまた別の様子で、ドロロはなんだかへこんでいるようだった。
「その、小雪殿がどうして怒ってしまったのか、分からないのでござる」
「…何となく、予想はつくけどさ」
サブローは小さく笑う。
滅多にケンカをしない2人だから、どうしたらいいか分からないらしい。
そんな様子もまた、微笑ましいと思ってしまう。
「小雪ちゃん、きっと…」
「え?」
「ううん、なんでもない」
恐らく正解であろう言葉を言いかけて、口をつぐんだ。
くすりと笑って、サブローはとんと立ち上がり、一歩離れる。
「本人に聞いてみなよ」
トン、と軽い音と同時に、屋根の下からパートナーが飛び上がってきたのは、ほぼ同時。
「ドロロ!」
「小雪殿…!」
何か言う前に、小雪はドロロに飛びついた。
「ドロロ、ごめんなさい!」
「え、」
「本当は、ドロロのために作ったんだよ」
「せ、拙者のために…?」
驚きと嬉しさでわたわたするドロロと、猫のように擦り寄る小雪。
笑うサブローの後ろで、クックックともう1つ声が上がった。
「優しいねークルル」
「ガキのお守りはこれっきりにしてほしいぜェ」
なんて言いつつも、しっかりドロロの現在位置を探って小雪を連れていった辺り、今日は随分世話焼きだ。
なんだかんだで、小雪のことも気に入っているらしい。
「クルル、俺も」
「クッ」
そっぽを向いたままの背中に、ぎゅうと抱きついた。
「2人を見てたら、羨ましくなっちゃった」
「言ってろ」
そういうクルルも、満更ではないらしい。
背中越しでも、すぐにそうと分かった。
***
さーや様へ23623hit記念でした。
『電波コンビ&忍者コンビ ほのぼのorシリアス』でした。
コンビというか、ドロ雪っぽくなっちゃいました。このコンビ同士仲良かったらいい。
2009,11,21