・だって、あいつは僕の相棒ですから

「神崎左門くん、次屋三之助くん、お友達がお待ちです。
一階迷子センターまでお越しください」

来年からは中学生だというのに、
デパートの迷子放送に頼って同級生を捜さなきゃならない切なさに、作兵衛はため息をつく。
アナウンスで年齢や外見を指定し、恥を上乗せするのはせめてやめておいた。

(それに誘拐でもされたら堪ったもんじゃねぇ)

放送を聞いて、どうか自力でここまで辿り着いてほしいものだ。
店の人に訊くとか方法はあるんだから、それ以上の譲歩はできない。

いっそ室町時代だったなら、迷子になっても最悪 町外れで狼煙でも上げさせて居場所がわかったのに、と思う。
この屋内では――たとえ駐車場に出たとしても、狭い空の下でそんなことはできない。





「いた、作兵衛!」
「捜したぞ」

随分待ってから迷子センターに到着した二人は、昔と変わらず無邪気で悪びれない様子だ。
こっちの気苦労も知らず……と拳を握る。

「お前ら本ッ当に進歩ねぇ!」

一発ずつ小突くが、きょとんとされるばかりで一向に反省の色は見えない。

「相変わらず保護者だな」

聞き覚えのある声が入口の方向から届いた。
振り向くと、見知った顔がそこにあった。


「……孫兵、か?」
「ああやっぱり。覚えているんだな、久しぶりだ」
「作ちゃん知り合いか?」
「応、ちょっとな」
「こいつがここまで連れてきてくれたんだぞ」
「放送を聞いて、たまたま二人を見つけたから。二人にしとくのは不安だったし」
「そりゃすげぇ助かった。ありがとな」
「どういたしまして」

大人びて微笑する孫兵の首回りを見て、『どうやら今日はジュンコと一緒じゃないようだ』なんてことを無意識に思った。
はっとして、まさか現代にも毒蛇(マムシ)を首に巻いているわけがないのだ と思い直す。
当時も十分に異端だったのだが、六年間も学園生活を送れば違和感も忘れてしまった。

作兵衛が何気なく視線を下ろすと、孫兵の足に引っ付くように後ろにいた女の子が目に入った。
ようやく幼稚園というくらいだろうか。赤いワンピースが似合っている。
あの頃、たしか孫兵に妹はいなかったな と振り返る。
現在の作兵衛・三之助・左門の家族構成は、前世のそれに似通っているからだ。

「その子は?」
「妹だよ」

嬉しそうに、孫兵はその子を抱き上げる。
妹のほうも慣れているのか、抱きつくように兄の首回りに両手を回した。
見るからにとても仲の良い兄妹だし、実際そうなのだろう。

「ジュンコっていうんだ」

孫兵は輝くような満面の笑顔で言った。
"ジュンコ"という響きに作兵衛は「まさか」と息を呑み、まじまじとその子を見つめる。
色素は薄めで、さすが孫兵の妹 という感じの整った顔立ち。
……だからって前世の面影があるかどうかなんて、わかるはずがない。

左右では、どういう知り合いかと訊ねて服の裾を引っ張ってくる二人がうるさい。
あとで怒鳴ろうと心に決める。"ジュンコ"のほうがよっぽど落ち着いているというのに。

"ジュンコ"は、初対面のはずの作兵衛の視線を怖がることもなく受け止め、どこか平静な眼で見つめ返しているほどだった。
兄の首に抱きついているのは、外敵から孫兵を護るためのような――
ふたたび孫兵に目を戻した作兵衛は、彼の表情にデジャビュを覚えた。

かつて、孫兵が云った。

■だって、あいつは僕の相棒ですから■


提出先:『巡れ、廻れ』さま)
//(お題配布元:『age』さま


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