ミルクティ



カタカタと小さな音を立てて、弥子が姿を現した。
両手で盆を持っていて、その上にはティーポット一つとカップが二つ乗っている。

何だそれはと聞くと、ミルクティだよと返ってきた。

そうではない。

カップが二つ。
魔人の自分は人間界の飲食物を受けつけない。
知らないわけでもないだろうに、なぜわざわざ必要もない手間を。

弥子はうーんと首を捻って、気分の問題だよと答えた。
こんな寒い夜に、一人だけ温かいミルクティで暖を取るのはなんだかずるい気がするのだと言う。
我が輩にはこの程度の寒さなど何でもないぞと言うと、分かってるよと返ってきた。

一人より二人がいいのだと言う。

そういうものなのかと思って、弥子がテーブルの上に二つカップを置き、ミルクティを注ぐのを見つめる。
ネウロのカップはそのまま、自分のカップには砂糖を二杯入れる手つきを何となく眺めていた。

弥子がカップを両手で包み込む。
何をしている、と聞くと、こうすると手が温まるんだよと言う。
真似をして包み込んでみた。

カップを吹いて覚ましながらゆっくりとミルクティを啜る弥子を見る。
ああ温かい、と呟く弥子の声。
かつての少女めいた無邪気さだけでなく、歳月を経て深みを増した柔らかな声に耳を澄ませる。

「これ」がずっと欲しかった。

この存在を失うことをどれほど恐怖したか。
本来の世界で一人になったとき、傍にいないこの存在をどれほど欲しいと願ったか。
初めて触れた次の朝、首に回された腕の温もりにどれほど安堵したか。

きっと、弥子にはわからない。
わからないままでいいのだと思う。

そっとミルクティを啜ってみる。
顔を上げると、弥子と目が合った。

美味しいでしょ。

そう言って微笑む顔が、幸せだと告げている。
何の味もしないはずのミルクティが、何故か少しだけ温かかった。



ミルクティ/終



皆さまが、少しでも温かい夜を過ごせますように。

コウヤ




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