茜時
「今日のお夕飯何がいい?」
「天ぷら!」
ミコトが問いかけると、サスケは嬉々として答えた。
「イタチは?」
「じゃあオレも天ぷら」
「あらそう? じゃあ…天ぷらにしようか」
サスケは「やった」と嬉しそうに笑った。
それほど天ぷらが好きという訳でもないのにサスケが喜ぶのも無理からぬ、空腹が気になる時間帯。
夕食の買い物に息子たちを従えて、ミコトは上機嫌で商店街を歩いた。
夕暮れ時の木ノ葉の街は美しい。
「いい匂い…何か買っちゃおうか」
惣菜屋の一角に、焼きたてのたい焼きと今川焼が並んでいる。
「あなたお団子好きでしょ」
きちんと並んだ団子を指差してミコトが言うと、一瞬黙ってから「いや、いい」とイタチが言う。
「磯辺焼きもあるわよ、これなら食べられるでしょ?」
と、今度はサスケに聞く。
サスケは黙って首を横に振った。
「変な子たちね…お腹空いてるんじゃないの?」
二人の顔を交互に見て、怪訝そうにミコトが言う。
暫く行くと、今度は鉄板焼きの出店に行き着いた。
「たこ焼き下さい」
店の前に立つと、ミコトは財布を取り出して言う。
「毎度!きれいな奥さんにはおまけしちゃうよ」
ぎゅうぎゅう詰めのたこ焼きを小父さんから手渡されると、ミコトは笑って「ありがとう」と受け取った。
「3人で食べましょ。それならいいでしょ?」
たこ焼きの箱を差し出されて、兄弟は顔を見合わせた。
「熱いから気を付けて…サスケ、ゆっくりね」
ふーふーと冷ましながら焼きたてのたこ焼きを3人で頬張る。
「おいしい?」
ミコトが言うと、サスケは「うん」と頷いた。
なんだかんだ言ってよほど腹が減っていたのか、4人分相当のたこ焼きはあっという間になくなった。
「お団子と磯辺焼きが嫌いになった訳じゃないわよね? どうして要らないって言ったの?」
不思議そうにミコトが問う。
「…だって、食べ歩きなんて行儀が悪いって父さんが」
サスケは少し遠慮がちに重い口を開いた。
「それに母さんだってご飯の前におやつなんていけません! ていつも言うじゃないか」
少し語調を強めて付け足す。
「…そっか……ごめんね」
一瞬の間を置いて、ミコトは微笑んだ。
「私たちの言いつけをよく守ってるのね」
そう言いながら両手で二人の頭を撫でた。
「あの人は頭が固いからね…今日のことは3人の秘密ね。たまにはいいでしょ?」
口の前に人差し指を立てて、ミコトは悪戯っぽく片目を閉じた。
兄弟は夕陽に縁取られた少女っぽい母の表情に見とれる。
「さ、お買い物済ませて帰りましょ。遅くなると機嫌悪くなっちゃうから」
その後立ち寄った青果店でも、たこ焼き屋の小父さんと似たような理由でたっぷりおまけをしてもらった。
山のようなキャベツとトマトをそれぞれ手分けして持つ。
「ねえ兄さん、母さんってすごいね」
「そうだな、うちで一番強いかもな」
母の背中を見ながらこそこそ話す。
家までの道は、あと少し。
了