3.彼の部屋
「痛い痛いギブ! 無理だってば!」
さっきから何度同じことを繰り返しているだろうか、サスケはムスッとむくれ顔で上体を起こした。
「んなこと言ってたらできねーだろ」
「だってほんとに痛いんだもん…サスケのバカ!」
ナルトが涙目になって言い返すと、サスケはため息をつきながらボリボリと頭を掻いた。
前回はいざ鎌倉というその時に両親の帰宅によって座礁した。
それからも、何度か続きを試みようとはした。
2人で出かける休日、繁華街を歩く度にそれとなくホテルの前を通りかかったり。
どうしても最初はサスケの部屋がいいとナルトが言う。
そういうものか、女の子にとって初めてとは大事なものかと納得して、サスケは待った。
都合よく母が家を空ける今日この日が来るのを我慢の子で待った。それなのに。
「今日は痛いからもう無理だってば…」
「今日は無理って、じゃあいつなら痛くないんだよ」
「…………」
苛立ってはいけない、ナルトは何も悪くないとサスケは自分に言い聞かせる。
「こんなに濡れてんのに」
「んっ……やだ…」
水源に指を這わされて、ナルトは腰を捩らせる。
触られるのは気持ちいい、それだけでも大きな進歩だった。
最初の最初は指を入れるのも痛がっていたことを思うと。
指で愛撫する分にはナルトはこんなにもいい表情を見せてくれる。
サスケはもう一度ナルトに重なって唇を合わせた。
唾液が絡むような激しいキスにも慣れた。
「……サスケ、この前言ったこと覚えてる…?」
「ん?」
少し顔を離してサスケが聞き返す。
「…サスケが自分でするとこ、見たいってば…」
まだそんなこと言ってんのかと言いたげに、サスケは呆れて体を起こした。
「嫌だ」
「なんで?」
「そんなもん普通は人に見せるようなもんじゃねーんだよ」
冷たく言い切られてナルトはしゅんと縮こまる。
「だって……サスケ辛そうだし……」
ナルトは白い手を伸ばしてサスケの下腹部に触れた。
今すぐにでも挿入できるほど昂っているのに、自分のせいでという責任感はナルトにもある。
慣れない手つきでそーっと握って動かす。
「…気持ちいい…?」
「…………」
声にならないけど、サスケの表情が無言の返事となった。
華奢な指先で触れられて無駄撃ちしそうになる。
サスケはナルトの手を取ってそこから離させた。
「…見せてやるから、お前も腹くくれよ」
「…うん」
ナルトはコクンと頷いて正座した。
ナルトの手から自分の手に持ち替えると、不思議とさっきのような焦りはなくなる。
いつも通り、いつものやり方で上り詰めればいい。
でもいつもと違う、今はナルトに見られている。
視姦という単語がサスケの脳裏に浮かんだ。
雁筋を刺激するように擦り上げて、一層腹に張り付くほど反り返る。
次第に手の動きを早めると先端が潤んだ。
見られて興奮する、自分は変態だったのかとサスケは内心狼狽した。
それも今はどうでもいいほど気持ちいい。
いよいよラストスパートをかけようかというその時、ナルトがサスケの手を掴んで手淫を中断させた。
そのまま屈み込んで、根元を指で支えて咥える。
「お前、なに…」
「…しょっぱい…」
先端にれろれろと舌を這わせながら曖昧な発音で言う。
「やめとけ、不味いぞ」
今度は返事もなく小さく首を振って、ナルトはしっかりサスケを咥え込み直した。
さっきの指使いと同じ、慣れない舌使いで必死に奉仕する。
見せろと言うから見せてやったのに、自分のを咥えるナルトの表情に、サスケの我慢は今度こそ限界に達した。
「やめろって」
強引にナルトの唇から引き抜くと、両手でナルトの頭を持ち上げた。
「なんで…? 気持ち良くなかった? して欲しくない…?」
「して欲しいけど、今すぐじゃなくていいんだよ」
そう言いながらナルトの体を勢いよく仰向けにする。
「ああぁっ…」
脚を開かせながらまだ濡れているのを確認すると、サスケは根元を軽く握ってそこへ押し当てた。
「あっ、あぁっ……」
体温は変わらないはずなのに、さっきより熱い。
どう頑張っても先端までしか挿入できなかったのに、ナルトから溢れた蜜水に任せるようにさっきよりいくら先まで進入させた。
「ん…っ…」
それでも痛いのだろう、ナルトは表情をしかめてサスケの腕を握り締める。
サスケはナルトの頬に触れてゆっくり唇を重ねた。
歯を食いしばるナルトの唇を舌先で懐柔する。
全身から少し力が抜けたのを感じると、サスケはさらに奥まで突き入れた。
「痛いか…?」
「…痛い……」
ナルトはサスケから目を逸らして答える。
「…・・・でも、気持ちいい……かも…」
目を閉じて、やっと続きを言った。
ナルト自身無意識にしたことだけど、その表情はあまりにも男の理性を刺激し過ぎる。
「…痛かったらごめん」
サスケは少し体を起こすと、ゆっくり腰を動かした。
「んあっ…」
疼くような痛みにナルトの表情が引き攣る。
「悪い、痛い?」
「……痛いけど……」
続きは聞かなくてももう分かる。
サスケはナルトの内腿を撫でながら支えて、少し律動を早めた。
「あ……サス、ケ……」
「あ」
なんの予兆もなく訪れたその瞬間に、避妊具を付けなかったことを思い出してサスケはナルトから思い切り引き抜いた。
「いてっ」
入れるだけでなく後退するのにも痛みが伴うとは予想外で、ナルトは思わず体を強張らせる。
下腹部に受けたサスケの生暖かい温度が、その緊張感を解いた。
ナルトの肌の上に全部出し切って、サスケは大きく息をついて脱力する。
「…ごめん、オレだけいって…」
ティッシュを数枚引き抜いてサスケがそれを拭うと、ナルトは嬉しそうに笑って首を振った。
「サスケが気持ち良くなってくれたらそれでいいってば」
短い、ほんの数分にも満たない目合い。
その余韻に浸る間もなく、ガレージのシャッターが開く音と車のエンジン音が2人の耳に届く。
「げっ…またか!」
サスケは窓の下を覗き込んで血相を変えた。
幸い父に比べて母の車庫入れは若干時間がかかる。
その僅かな時間内に慌てて窓を開けて換気を図り、演劇の舞台裏のように忙しく服を着た。
「…おかえり」
「お邪魔してます…」
出迎えに階下へ降りると、母が玄関を上がる。
「いらっしゃいナルトちゃん。……前もこんなことあったわね」
「そうだっけ……偶然だろ」
ぎこちない作り笑いでサスケが答える。
サスケはきっと親に嘘をついたり隠しごとをするのに慣れていないのだろう。
自分のためにそれをさせてしまったと思うと、ナルトの胸がチクリと痛む。
「そう? 今日はブリュレ買ってきたから。おいしいわよー、楽しみにしててね」
上機嫌でそう言って母がリビングに入ると、サスケは後ろ手にナルトの手を握る。
この時ほど、女の子に生まれてよかったと思ったことはない。
ナルトもサスケの手をぎゅっと握り返した。
続く