恋は盲目




 非番の朝は決まってこの時間に目が覚める。

ベッドから起き上がって顔を洗い歯を磨き、今日の予定を頭の中で組み立てる。

少し髪が伸びた気がする、サスケは鏡の中の自分を見た。

髪を切りに行くか、しかし修行の時間を削るのが惜しい、その前に朝食にしよう。

水を止めて、寝衣を脱ごうとした時だった。

呼び鈴が鳴る。

「サスケ、起きてるか?」

こんな時間に、誰かと思ったら。どこまでも迷惑な奴だ。

サスケは口の中で小さく舌打ちをして、玄関の扉を開けた。

「…わりーな、こんな早く…」

確かにナルトの声がしたはずなのに、扉の前にはナルトではない少女が立っている。

バツが悪そうに笑った。

「そんな下らない術を見せびらかすためにわざわざ来たのか」

サスケは不機嫌を目一杯表情に表す。

ナルトは玄関口につま先を突っ込んで、閉められようとした扉をせき止めた。

「ちげーんだ、これ、変化の術じゃねんだってば…」

「……………」

ナルトの切羽詰まった顔と声に、サスケは眉をひそめた。


「何回やっても元に戻んねーんだ」

部屋に上げられて、ナルトは床にどっかりあぐらをかいた。

自宅ですでに試したという通り、サスケの前でも何度か解除を試みる。

術は一向に解ける気配がない。

「ふざけてばっかだから元に戻らなくなったんだろ、自業自得だ」

サスケは何食わぬ顔で言うと、ベッドに腰掛けた。

寝衣を脱ごうと襟元に手をやって、止める。

「別にオレにかまってねーで着替えればいいってば」

ナルトは解除に集中しながら言う。そこでぴたりと動きを止めた。

「もしかしてお前、照れてんのか?」

「はぁ?」

おもしろいおもちゃでも見つけたように、ナルトは明るい顔になってサスケを見る。

サスケの顔色が変わったことに気付くと、ますます嬉々として。

「お前、女の前で着替えんのが恥ずかしいのか? 女じゃなくてオレなのに」

「…うるせーな、そんなわけねーだろ」

サスケの反応には、明らかに動揺が表れていた。

本人にそんなつもりはなくても、言い返すほど深みにはまる。

普段クールなサスケの表情が崩れた、ナルトはそれを貴重なイベントのように楽しんだ。

サスケちゃんよ、とからかいながら。

「ちょっと来い」

サスケはムスッとして、ナルトを手招く。

「なんだってば」

すっかり上機嫌になったナルトは笑いながらサスケの隣に座る。

サスケは無表情のまま、ナルトにふれた。

「ふぁっ」

いきなり胸を鷲掴みにされて、ナルトから奇声が上がる。

「ちょ…なんだってば…」

「本物みてーだな」

真っ赤になって慌てるナルトに構わず、サスケは手の中のふくらみを強く揉んだ。

「や、やめ…」

嫌がって逃げようとするナルトの両腕を、サスケは片手で簡単に締め上げる。

「力弱くなってるな」

体が女になったことによる変化かとサスケが冷静に分析する一方、今度はナルトが動揺していた。

力が入らずサスケに歯が立たなくなっていることと、初めて味わった感触に。

ナルトの両腕を掴んだまま、サスケはナルトの襟に手をかける。

金具を引きずり下ろすと、女体を象徴するようなふくらみが露わになった。

「何すんだってば、恥ずかしいだろ…」

「お前、オレの前で裸になるのが恥ずかしいのか?」

さっきの悪ふざけをそのままやり返されて、ナルトは真っ赤になって黙り込む。

「は、恥ずかしいに決まって…」

言い返そうとすると今度はじかに胸を掴まれて、ナルトの声が尻すぼみに上ずった。

おかしい、こんなはずはない。

ナルトは必死で否定する。

力が弱くなっただけでなく、抵抗できなくなっていることを。

「……放してくれってば……」

むにむにと弄ばれて、ナルトは声を震わせる。

「…もう暴れねーから……」

何とかそれだけ言い切る。

数秒の間を置いて、サスケはナルトの両手を解放した。

解放しても、悪戯の手は止めない。

ナルトも口約通りおとなしくされるがままになった。

ふくらみの頂上の実が硬くなる。

自分でも撫でたり揉んだりはした。それでも快感など少しもなかった。

それなのに、同じことをサスケにされているというだけで。

真綿のようなやわらかな花房に、サスケの唇が触れる。

「あっ」

ナルトが小さく叫ぶと、サスケは硬く露出した実に舌を這わせた。

「あ…ぁ……」

舐めたり吸ったり、もう片方は指先でくりくりといじられたり、ナルトはサスケの好きなようにされる。

力の入らなくなった体を支えるのがやっとになる。

「気持ちいいか?」

問いかけられたのが合図のように、ナルトはベッドにぱたりと倒れ込んだ。

仰向けになったナルトに覆い被さるように、サスケは首筋に吸い付く。

もっとして欲しくて、ナルトはサスケの頭を抱え込んだ。

絶対におかしい。こんなことをしに来たのではないのに。

サスケもサスケで、説明のつけられない興奮に苛立っていた。

何故自分がこんな奴を相手に、ここまで欲情させられなければならないのか。

普段バカ面マヌケ面と評価しているこいつを可愛いと思う、この気持ちは何なのか。

サスケはナルトの下腹部を撫で下ろしながら手を這わせる。

ナルトの体がびくんと跳ねた。

「…サスケ、それは、ちょっと…」

ナルトの細切れの抵抗にも、サスケの手が止まることはない。

「…さすがに、マズいってば…」

火照って仕方ない部分に下着越しに触れられて、ナルトはきゅっと両脚を閉じた。

「して欲しくないのか?」

サスケはナルトを見下ろして言う。

じりじりと忍び入ってくる指に、ナルトはふるふると首を振る。

「オレにこういうことして欲しいからここに来たんだろ?」

耳元をくすぐるように囁くのは卑怯だと、ナルトはぼんやりと思う。

「ああっ…」

一番敏感な部分を掠められて、ナルトの声が上ずった。

サスケはゆるゆると力の抜けて行くナルトの下肢から、オレンジの忍服を脱がせる。

現れた男物の下着のあまりの色気のなさに萎えることもなく、するりと引き下ろした。

「こんな風になってんのか」

ナルトの片脚を持ち上げて、サスケは見慣れない女性器をまじまじと凝視する。

「…だから、あんま見んなって…」

脚を閉じようとするナルトを捻じ伏せて、サスケは悪戯を再開させた。

滲み出るように潤んだ小さな肉芽に触れると、ナルトの腰がぴくりと弾む。

思春期の少年なら誰でもする、友達と群れての猥談の類にサスケは参加したことがなかった。

アカデミー生の頃、近くの席の生徒たちのそれが耳に入る程度だった。

グロいとか初めて見る時はビビるらしいとか、断片的に聞こえてきた情報が、このナルトの体にはどうしても当てはまらない。

「お前の、きれいなのか」

きれいなやつもあるらしい。サスケの未熟な知識に刻み込まれた。

「ああっ、あっ…」

ぬめりに任せて擦り回すと、ナルトは腰を捩って喘ぐ。

小さかったものが、ぷくりと充血して膨らむ。

この辺りの原理は男と同じなのかと、サスケにもう一つ知識が刻み込まれる。

「どこがいい?」

芽を撫でたり、細い溝をなぞったり、入口に指先を咥えさせたり、サスケは手探りでナルトの性感を拓いていく。

どこをどうさわられても気持ちいいせいで、ナルトは呼吸を乱して頷くしかできない。

サスケは狭い入口に軽く入れた指を、半信半疑で奥まで侵入させた。どこまで入るのかと。

「いっ…ああぁ……」

「すげー、全部入った」

中指の根元まで突き入れると、サスケは中で指を曲げては動かす。

「ああ、あぁっ」

ナルトの表情が歪む。

痛いのかもしれない、それでもナルトを気遣う余裕はもうない。

中指を締めつける膣内のあまりのいやらしさに。

サスケは上体を起こすと、さっきは脱ぐのを躊躇した寝衣を勢いよく剥いだ。

適当に下着をずり下げて、痛いほど疼く肉茎を解放させる。

「えぇっ、サスケ…ちょっと…」

「なんだよ」

まさか最終段階にまで及ぶとは、ナルトは顔色を変えてサスケの手首を掴む。

ナルトから指を引き抜くことなく、サスケは硬くなったものを慰めていた。

「……入れるんじゃ、ないのか…」

がくんと脱力して、ナルトは継続して与えられる快感に目を閉じる。

「入れて欲しいのか?」

「………」

「入れて欲しいのか欲しくないのか、どっちだ」

触れそうなほど顔を近づけられて、ナルトは余計に固く目を閉じた。顔が燃えそうに熱い。

これ以上ないほど赤くなっている顔を見られるのが、この期に及んで恥ずかしい。

「お前が嫌がると思って我慢してやってんだろうが、早く答えろウスラトンカチ」

「…お前なあ、なんでそんな言い方…」

いつも通りのサスケの高圧的な物言いに、ナルトは涙目になって目を開ける。

理性も常識も吹き飛ぶ、恋は盲目という語句をナルトは何故か思い出す。

目の前のサスケは、いつも通り優しい顔をしていた。

「…い、入れて…欲しいってば……」

後のことは、後になってから考えよう。

きっとサスケもそう思っているだろう。

指を引き抜かれる感触に顔を引き攣らせながら、ナルトは思う。

硬い先端を押し当てられて、ナルトはサスケの腿から膝に手を滑らせた。

「ああぁ…」

中を拡げながら、ぬるぬると押し込んでいく。

互いに溢れた水分が混じり合う。

ゆっくりと奥まで繋がると、今にも爆発しそうに血管が脈打った。

「…痛いか?」

「…痛くねえ……」

ナルトはそう答えるのがやっとで、両腕をサスケの首に絡みつける。

「ああっ、あっ、ああぁ…」

ゆるく動かされるだけで腰が抜けそうに喘いだ。

今挿入したばかりというのに、サスケは早くも決壊しそうになる。

初めての行為に、快感のコントロールなどできるものではない。

「…くっ……」

サスケは表情を歪めて、ナルトの中に思い切り熱を放った。

ドクドクと脈打って、大量に射出する。

痙攣が治まると、サスケは息をついてナルトから引き抜いた。

ティッシュに手を伸ばすこともできないほど、下半身がけだるさに包まれる。

どさっとナルトの横に寝そべった。

「…どうすんだよ、中に出しちゃって…」

「はぁ?」

目を開けると、ナルトがわなわなと唇を震わせている。

「…赤ちゃんできちゃったらどうすんだよ! お前責任取ってくれんのか!?」

ナルトは本気で涙目になって抗議する。

「お前は男なんだから妊娠なんかしねーよ」

「今は女の体なんだから、どうなるか分かんねーだろ! 結婚してくれんのか!?」

「分かった分かった、してやるよ」

疲れに任せて、サスケは適当に相槌を打つ。あくびをして目を閉じた。

ナルトはなんとか黙らせたけれど、今度は気味が悪いほどおとなしい。

うっすらと目を開けると、潤んだ目でサスケを見つめるナルトと目が合った。

「…なんだよ」

「ほ、ほんとに結婚してくれんのか?」

「はぁ?」

「だって、サスケ今…してやるって…」

まさかさっきのあれを真剣に受け取ったというのか、サスケは絶句する。

「…本気なら、許してやる……中で出したこと…」

「…なに赤くなって言ってんだ、気持ちわりーな」

「自分こそ赤くなってるってば!」

ナルトはそう言い返しながらサスケに枕を叩きつけた。

「…なんかオレおかしいってば、お前なんか大嫌いなのに……なんでこんな…」

枕をどかしもせず、サスケはナルトの手首を掴む。

「オレもだ」

「…マジで?」

ナルトは枕を取り上げて、サスケの顔を覗き込む。

サスケはナルトの後ろ首をぐいっと引き寄せた。

「だからもう一回やらせろ」

「……!!」

殴ってやろうと振り上げたナルトの拳は、サスケに簡単に捕えられる。

追撃することはかなわず、代わりに唇を塞がれた。







(2012.10.12)



第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -