蛇の道は蛇




 武家の次子という身分でありながら単身で山道を行く。

どう見てもお触れの人相書きの男とすれ違ってから、サスケは少々気が立っていた。

「下らない」

誰に言うでもない独り言。

一本道の向こうから誰か歩いてくる。

さっきの男とすれ違ってから一時は経っている、影ももう長い時刻。

すれ違いざまに見ると女だった。女もちらりとサスケを見る。

こんな時分に女が1人で行く道でもない。

しかもよく見ると西陣の着物など着たそれなりの身なり。

物の怪の類でもあろうか、狐の子がどこぞの姫にでも化けたか。

傾いた陽を受けて光る、どこかで見たような眩しい髪がいかにもそれらしい。

どちらにしても関わればろくでもない。

そのまま素通りして二、三歩行った時。

「あのう」

か細い声に振り返ると、女もサスケを振り返っていた。

「あなた様がうちはサスケ様なのですね」

こんな女は知らないが、自分を知っているという。

サスケは「そうだ」と短く答えた。

「サスケ様をお迎えに上がるようにと父の申しつけです。供の者とはぐれてしまって…」

そう言うなりうるうると涙ぐむ。

「ではあなたがうずまき殿の姫君か」

「ナルトと申します」

すんすんと鼻をすすって袖でゆかしく口許を覆う。

よほど心細かったのか、サスケに会って緊張の糸が緩んだのか。

これから夫となる男の前で。

ついさっきまで陽が射していたのに雲行きが怪しくなったかと思うと、ゴロゴロと雷雲を伴った小雨がぱらつき出す。

女心と山の空は変わり易い。

「急ごう」

「はい」

そう言ってサスケに手を取られて、ナルトはうっとり幸せそうに答えた。


 最寄りの宿場に着く前に本降りに見舞われたせいで、道行を諦めて適当に雨宿りをする。

畑仕事の農具が押し込められた簡素な小屋。

大人2人で入るには狭すぎて、都合どうしても密着せざるを得ず。

サスケにとってはどうにも居心地が良くない。

ぴったりと腕にしがみついてくるナルトの体は着物の上からでも分かるほど柔らかい。

呼吸の度に膨らみが押し付けられる。

「落ち着け、これは女じゃない、狐か何かだ」

「何か仰いました?」

心の声が言葉になっていたらしく、サスケは平静を装って「何でもない」と答えた。

「……私には生き別れの兄がいます」

突然何の脈絡もなくナルトが切り出した。

「私たちはよく似ていて、鏡のように育った大好きな兄です」

不安を紛らすために身の上話をしているのだろうと、サスケも黙ってナルトの話に耳を傾ける。

「何があったのか父上は明かしてくれませんが、元服直後に破門されて今は浪人に身を落としているはずです」

浪人?

サスケの中で何かが引っ掛かる。

「こうして外に出る内に悪い噂も聞きました。……お触書が出回ったとも…」

浪人、触書、うずまき姓。

それにこの顔、髪の色。

どこかで見た気がしたのは気のせいではなかった。

サスケはナルトの肩を掴んで強引に自分を向かせる。

「サスケ様…?」

「先程すれ違った、あれはお前の兄だったのか……」

サスケの眼が朱く変わる。ナルトは息を飲んで固まった。

「斬っておけばよかった……代わりにナルト姫、お前に落とし前をつけてもらうぞ」

「え……」

「悪く思うな、今オレは虫の居所が悪い」

むしり取るように着物の袷を肌蹴られ、白い果実が晒される。

「嫌……おやめ下さい…!」

「恨むならお前の兄を恨め」

青褪めて怯えるナルトの両手首を押さえ付けて、乱暴に裾を割って太腿を剥き出しにした。

「や……いやああぁぁぁぁぁぁ!!!」

憐れな姫の悲鳴は雨音と雷の轟音の向こうへ虚しくかき消えた。








「…うっ……うぅっ……」

「いつまで泣いてる、いい加減に泣き止め」

さっきとは逆に、狭い空間で何とかサスケから離れるように背を向ける。

ナルトは休むことなく泣き続けていた。

空模様と同じように。

「ひっく……ひどいってば、サスケ様……初めてだって言ったのに、優しくしてくれるって言ったのに……しかもあんなに何回も…」

「お前がしてしておねだりしたんだろうが」

ナルトは返事もなくかぶりを振る。

泣きすぎて顔も声も原形を留めていない。

「どうせお前はオレの妻になるんだ。遅かれ早かれやることは同じだろう」

「こんなのやだってば……こんなんじゃ、もう…きれいな花嫁さんになれないってば……」

「オレはそんなに汚いか」

「汚い!」

全力で即答されて、サスケは「そうか」と笑った。

後ろからナルトの体を抱き寄せて、優しく腕の中に納める。

「お前の父上は罪作りだな。こんな姫をのこのこ迎えに遣るなんて、どうぞ犯って下さいと言ってるようなもんだ」

耳を掠める、低くて心地よい声。

「毎晩嫌というほど可愛がってやる」

まさかまたやるのかとナルトは必死でサスケの腕を逃れようとする。

「安心しろ、さすがに弾切れだ」

そう言う顔が優しくて、悔しいことに惹きつけられて仕方ない。

最悪な形で運命の恋に落ちてしまった。

蛇の道は蛇。















***
ナルコごめんね。
蛇の道は蛇はただの語呂合わせなだけで特に意味はないです。
時代考証とかさっぱりできない奴なので、変な個所があったらごめんなさい。
しかも人相書きにはっきり「うずまき鳴門」って書いてあったのに…
兄妹で同姓同名なのはおかしい。
あのEDにこんな続きがあったらスキすぎる。



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